1972年2月、ニクソン米大統領が訪中し、周恩来首相と会談を重ねて米中関係の正常化に合意して50年。冷戦下の米中和解は同年9月の日中国交正常化を後押しし、翌年1月のベトナム和平合意の布石ともなった。

 今、ロシアはウクライナに侵攻し、米国など自由主義陣営と強権的なロシア、中国の対立は激化する一方だ。当時の雪解けとは正反対の深刻な「新冷戦」は長期化の様相を呈し、まったく出口が見えない。

 世界と地域の「平和と安定」を左右する大国の責任は極めて重い。米中そしてロシアの首脳は50年前の歴史的な和解の経験を見つめ直し、冷静な対話を通じ、新たな時代の下で平和共存の道を探るべきだ。

 ニクソン氏は71年の米中ピンポン外交、キッシンジャー米大統領補佐官訪中などの準備を経て、米大統領として初めて訪中し、米中両国はイデオロギーの違いを超えた「平和共存5原則」で一致した。ニクソン氏は帰国前「世界を変えた1週間だった」と訪中の成果に満足の意を表した。

 72年5月には米施政下にあった沖縄が日本に復帰。ニクソン氏は同月ソ連も訪問して米ソ協調を確認し、ベトナム戦争終結に道筋を付けた。戦後27年を経て、世界は緊張緩和へ動き始めた。

 だが、50年後の国際情勢は大きく変わった。北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を恐れたロシアがウクライナに侵攻し、多数の死傷者が出た。米欧日はロシアに軍撤収を要求し、強力な経済制裁を発動した。

 ロシアには、米欧が旧東欧・ソ連圏の民主化によって勢力を広げており、自国の主権が危ういとの強い危機感がある。新疆ウイグル自治区や香港などの人権弾圧で国際社会の批判を受ける中国も同様だ。

 2月初め、中国の習近平国家主席は北京冬季五輪の開会式出席のため訪中したロシアのプーチン大統領と会談し、NATOの拡大反対で一致、人権弾圧に抗議して五輪を「外交ボイコット」した米欧日などに対抗して中ロ連携を誇示した。

 長文の共同声明によると、両首脳は「全面的な戦略的協力」で米中心の国際秩序に対抗する姿勢を鮮明にし、インド太平洋構想や西側民主主義の押し付けに反対した。

 プーチン氏は会談で勢いをつけた形で、ウクライナ攻撃を開始した。中国はウクライナとも友好関係を持ち、各国の主権と領土の尊重を常々訴えてきた。ロシアの暴挙を制止できなかった責任は重く、反省が必要だ。

 アジアでは台湾海峡と朝鮮半島が新冷戦の最前線である。台湾の蔡英文総統は中国がウクライナ情勢に便乗して台湾への軍事圧力を強めないか警戒する。常に中国の脅威にさらされている台湾の懸念は当然だ。

 バイデン米大統領と習氏は昨年11月のオンライン会談で、衝突回避で一致したが、人権、台湾、通商などの問題で激しくやり合った。ただ、歩み寄りの兆しはある。バイデン氏は「中国の体制変更を求めない」「『一つの中国』の原則を支持する」と確約し、習氏は中国人に「他を侵略し、覇を唱える遺伝子はない」と言明した。

 米中首脳は50年前の経験に学び、外交によって相互信頼の醸成に努めてほしい。両首脳は一致してロシアの蛮行を阻止するべきだ。