米欧と日本は、ロシアの銀行の一部を国際的な決済網から排除することを決めた。ロシアの中央銀行の為替介入を封じ、通貨ルーブルの下落に歯止めをかけられなくする制裁も実行する。

 これまでにない厳しい金融制裁だが、ウクライナに侵攻したロシアに同情の余地はない。制裁に抜け道ができないように国際協調を広げ、最大限の効果が発揮できるようにするべきだ。

 世界の金融機関が参加する「国際銀行間通信協会(SWIFT)」は、200を超える国・地域の銀行など1万1千社以上が利用する巨大なネットワークだ。海外との資金決済に欠かせない送金データなどを1日4千万件以上やりとりしている。

 制裁対象にするロシアの銀行はまだ決まっていないが、国際的に活動する大手銀行などが指定される見込みだ。ここから除外されれば、貿易取引の決済は事実上難しくなり、ロシア経済を支える天然資源の輸出は滞るだろう。

 ロシアに石油や天然ガスを依存するドイツ、イタリア、ハンガリーなどは強力な金融制裁をためらってきたが、ロシアがウクライナに攻め込んだことで決断を迫られた。資源不足と価格高騰も覚悟し、「最終手段」ともいわれる強力な金融制裁に踏み切ったわけだ。

 だが、ロシアと親密な国の金融機関がこの決済網を利用し、ロシアの銀行の資金決済を代行すれば、制裁は思うような効果が上がらない。ロシアと接近している中国、シリアなどの動向を注視する必要がある。

 ロシアに進出している米欧企業は少なくない。ロシアのすべての銀行を制裁対象にしないのは、同国との貿易や投資を最小限生かす必要があるからだろう。日本の場合、メガバンク3グループはモスクワに現地法人を置いている。日本との間で決済を続けられるので、取引先の日系企業も事業を続けられそうだ。

 だが極東ロシアなどに拠点を置く水産会社や漁業者は、メガバンクと取引していないケースもある。ロシアに進出している中小企業などへの支援を政府、銀行、産業界は一体で考えてほしい。

 一方、ロシア政府が保有する外貨準備は過去最大規模の6300億ドル(約73兆円)に上る。中央銀行への制裁でこれが使いにくくなる。ルーブルは急落し、ロシアは早くも緊急利上げによる通貨防衛に追い込まれた。金融制裁によって直ちに武力侵攻を止められるわけではないが、ロシアの国力を低下させる意味は大きい。

 原油価格は1バレル=100ドルを一時超え、歴史的な高値水準に近づいている。ウクライナ侵攻が終わらなければ、ガソリンやガスの国際価格が値上がりするのは避けられない。

 金融制裁はロシアに懲罰を与えるだけでなく、日米欧の各国にも大きな負担を強いる。制裁が長期化すれば、ロシアと日米欧の我慢比べになるだろう。ロシアと地理的に近い欧州はもちろん、物価高騰に苦しむ米国も無傷ではすまない。ガソリンや灯油の値上がりが続く日本も同じだ。

 武力行使を続けるプーチン大統領に対抗するには、各国の指導者がロシア制裁によって生じる負担を率直に説明し、国民の理解を得ることが欠かせない。岸田文雄首相には今こそ「語りかける力」を求めたい。