ロシアのウクライナ侵攻で恐れていた市民への攻撃が始まった。ロシア軍は首都キエフなど都市部に向けて大量の地上部隊を進撃させ、ミサイルによる都市部の庁舎や集合住宅への無差別的な攻撃に踏み切った。停戦交渉をしながらも、プーチン・ロシア大統領はキエフを包囲し攻撃を強めた上でゼレンスキー・ウクライナ大統領に降伏をのませる狙いだろう。

 ゼレンスキー氏は徹底抗戦を呼び掛け、ウクライナ国民の士気も高いという。欧米はウクライナ軍支援のために兵器の供与を拡大し、また祖国防衛に参加する在外ウクライナ人の帰還も伝えられている。

 このままでは都市部での大規模な市街戦に突入し、兵士だけでなく無防備の市民が大量に殺りくされる懸念が大きい。虐殺の危惧(きぐ)があるし、理性を失ったプーチン氏による核兵器使用の悪夢も排除できない。

 バイデン米大統領は1日の一般教書演説で、「独裁者に代償を払わせる」と述べ、国際社会の結束を呼び掛けた。日本は平和で民主的な国際規範を守るために、制裁などに積極的に参加すべきだ。軍事力を振りかざすロシアに「ノー」を突きつけることは、平和国家日本の国益そのものだ。

 米国、欧州、日本はロシアの銀行を国際決済システムから除外し、ロシア中央銀行が保有する膨大な外貨準備を使用不能にするという大規模な金融制裁を決めた。

 欧米のエネルギー大手はロシアからの撤退を表明し、今後もロシア経済を国際経済から切り離す動きは加速しそうだ。ロシア通貨ルーブルは大幅安となり、ロシア国民の生活が困窮し始めている。対ロシア制裁は長期にわたる可能性がある。

 プーチン氏は侵攻の意図はないと欺き続け、ロシア系市民の虐殺が起きているとの証明されていない侵攻理由を挙げ、加えて核使用を脅すような発言で国際理念を冒〓(ぼうとく)した。これだけの国際規範違反を犯した指導者は国際社会から徹底的に排除されるべきである。

 国連総会はウクライナ情勢を議題に、40年ぶりとなる緊急特別会合を開催し各国がロシアを非難した。会合が採択する予定のロシア非難決議にはできるだけ多くの国が賛成してほしい。

 プーチン氏は、北大西洋条約機構(NATO)の拡大がロシアには脅威であり、ウクライナはロシアと不可分だと訴える。だが、冷戦が終わりソ連のくびきを解かれた東欧や旧ソ連の国々は、平和や発展を享受したいために欧米に近づいた。

 それは権威主義のロシアは恐怖でしかなく、ロシアに接近しても発展は望めないという決断からだ。NATO拡大は、体質を変えないロシアの自業自得と言える。今回の侵攻はロシアに各国が抱く恐怖が杞憂(きゆう)でなかったことを証明した。

 ウクライナ市民の殺りくを防ぐために、バイデン氏と中国の習近平国家主席はプーチン氏に翻意するよう説得すべきだ。ロシア軍はまだ都市への全面攻撃に着手しておらず、世界の反応を見極めているようにも見える。

 米国には冷戦後のロシアを軽視してきた傲慢(ごうまん)さがあった。中国は対米共闘やエネルギー輸入拡大の意図からか、ロシアの侵攻を非難せず無責任である。両大国が今こそ連携して、起きてはならない悲劇を避ける最後の努力をしてほしい。