国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、地球温暖化の影響や対策に関する最新の報告書を発表した。人間が引き起こした温暖化は既に深刻な悪影響をもたらしており、近い将来に、人間も生態系もそれに適応できなくなると警告した。
政策決定者は、世界の安定と繁栄にとっての巨大な脅威に対する危機感を強め、温室効果ガスの早急かつ大幅な削減に全力を傾ける必要がある。
IPCCの第2作業部会の報告書は、温暖化によって近い将来に産業革命以来の気温上昇が1・5度に達し、これが「気候関連の災害増加を引き起こし、生態系や人間に複数のリスクをもたらす」と指摘した。
注目されるのは、温暖化が山火事の多発などさらなる温室効果ガスの排出増加を招き、後になって気温上昇を抑えたとしても回復できないような影響を及ぼす可能性があるとの指摘だ。IPCCは、今後、数十年のうちに気温上昇が短期間でも1・5度を超えれば、多くの人と生態系がさらに大きな危険にさらされる可能性があるとの見解も示した。
近年、日本国内では「温暖化対策としては、2050年に実質的に排出をゼロにするカーボンニュートラルを実現すればいい」との議論が目立つ。しかし、今回のIPCC報告は、このような楽観論を否定するものだ。
たとえ50年の排出ゼロを実現しても、30年ごろまでに少なくとも排出量を半減させなければ、1・5度目標の実現はおぼつかないからだ。
もはや「50年脱炭素」などと悠長なことは言っていられない。日本をはじめとする温室効果ガスの大排出国の今後10年間の努力が、地球の将来を決めると言える。
報告書発表に際し、グテレス国連事務総長は、先進国が30年までに石炭火力発電を全廃するよう改めて求めた。国内で石炭火力発電所の新設を進め、バングラデシュなど海外の建設も支援している日本がまず取り組むべきなのは、この政策の見直しだろう。
IPCCは今回、気候変動が生態系に与える悪影響を詳しく分析し、気温上昇が1・2度の場合でもサンゴ礁や森林、海氷に依存する生物などにとっての大きなリスクになると指摘した。生態系と人間社会への影響は互いに関連し合っており、生態系破壊は人間が気候変動に適応する上での大きな障害になることにも言及した。
一方で、IPCCは森林保全や自然保護区の拡大、沿岸のサンゴ礁やマングローブの保護などによって気候危機の影響を小さくする「自然に基盤を置いた解決策」と呼ばれるものの重要性を強調した。
日本では、防潮堤や巨大なダムといったコンクリートの塊や、実用化にはほど遠い新技術によって問題を解決しようとの政策が主流となっており、気候変動対策と生態系保護を結びつける議論はほとんどなされてない。これも日本の政策の大きな問題だ。
人類の生存を左右するまでになった気候変動だが、それへの危機感も、エネルギー需給の構造を根本から変えるのだという政治的意思も、残念ながら日本の政策決定者の議論からは感じられない。世界第5の大排出国が負う大きな責任に、これ以上背を向けることは許されない。