「ギョーザの街 全国1位」の栄冠に宮崎市が輝いた。総務省統計局が2月上旬に発表した、2021年家計調査結果によるもので、ギョーザの街はずっと宇都宮市と浜松市が競っていただけに話題になった。家計調査から松江、鳥取両市の支出額を見ると、意外な品目が全国上位に顔を出していて面白い。山陰両県民が好む品目とその理由を探った。(Sデジ編集部・吉野仁士)
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家計調査は総務省が、全国の不特定の世帯を対象に、1953年から毎年実施。飲食料品や衣服、娯楽に関する約800品目の年間の平均支出額、購入数量(2人以上が住む1世帯当たり)を、地方別や、都道府県庁所在地と政令指定都市別で発表する。
宮崎市のギョーザの年間支出額は4184円で、都道府県庁所在地と政令市、計52市の中で1位。2位は浜松市の3728円、3位は宇都宮市の3129円だった。
宮崎市内のギョーザ専門店や卸業者でつくる宮崎市ぎょうざ協議会によると、市はギョーザの原材料になるキャベツ、ニラ、豚肉といった食材の生産量が全国トップクラス。ギョーザを市の特産品にするため、2020年9月、協議会を発足させた。市内各所でギョーザの販売会といったイベントを積極的に開き、ギョーザの消費喚起に努めたことが全国1位につながったという。
協議会の渡辺愛香会長は「宮崎市、宮崎観光協会の協力のもと、地道な消費促進の活動をしてきた。念願の日本一は、宮崎の観光をさらに盛り上げるものとして本当に嬉しい」とのコメントを発表した。
ギョーザのように山陰両県で全国に誇る品目はないのか、探してみた。
▼鳥取はカニ以外にも
鳥取市の調査結果によると、名産のカニの支出額は4816円で全国1位。次点の金沢市の4337円を引き離した。北栄町の特産「大栄スイカ」のあるスイカの支出額は1984円で、新潟(2359円)、札幌(2187円)の両市に次ぐ全国3位。


鳥取市が支出額全国1位になった品目の中にカレイがある。支出額2854円で次点の秋田市(1976円)に千円の差を付けて堂々のトップ。なぜ全国最多の支出額なのだろうか。
鳥取県水産試験場の野々村卓美主任研究員(41)によると、カレイは沖合底びき網で多く獲れ、漁獲量は年間1000~1500トンに上り「あまり知られていないが、漁獲量は兵庫県と毎年全国1位、2位を争うほど」(野々村研究主任)という。

カレイの中でもスーパーの店頭に並び、食卓に上る機会が多いのがアカガレイ。鳥取市では日常的に食べるというよりは、正月や行事ごとの時に選ばれる、おもてなし用の食材だ。地域の伝統料理では、アカガレイの刺身に、ほぐしたメスの卵をまぶした「子まぶり」が人気で、野々村研究主任は「特に鳥取県東部の県民にとってはソウルフードと言っていい」と力説する。
「蟹取県」として大々的に売り出すカニの陰に隠れているような感じもするが、カレイは全国に誇る漁獲量で、地元から長く愛される食材だ。

▼毎年支出金額トップクラス、カレーの聖地鳥取
このほか、鳥取市が全国上位にランクインする品目では「カレールウ」が有名だ。2003年分の調査で購入量、支出金額ともに初めて全国1位になって以降、毎年、全国トップクラス。総務省が2018~20年の3年間で、各市の品目別支出金額の平均値を比べたランキングでは、鳥取市が1855円で全国1位。

戦前の1935年、市でカレーに関する出来事があった。県産食材を使ったオリジナルのルウを販売し、鳥取カレーの発信に努める、株式会社鳥取カレー研究所(鳥取市新)の池本百代所長によると同年、イギリスの陶芸家のバーナード・リーチ(1887~1979年)が、鳥取市出身の民芸運動家、吉田璋也(1898~1972年)と交流があった関係で、鳥取市を訪れた。
吉田の頼みで、リーチが地域向けに家庭料理の講習会を開いた際の品目が、当時の日本では珍しいカレーだったという。池本所長は「珍しい料理を教わったことで、鳥取にカレーの文化が強烈に根付き、現在までの人気につながったのでは」と推測する。
池本所長によると、鳥取県民のカレー事情は少し変わっていて、関東方面では多くがカレーに豚肉を使うが、鳥取県では牛肉を使うことが多いという。池本所長は「鳥取県民にとってカレーはちょっとぜいたくな食べ物という特別な感覚がある」とする。

また、今でこそ県内にはインド風の本格カレーやスープカレーといった専門店が増えたが、一昔前までカレーは家庭で食べるものという考え方が主流で、外食でカレーが食べられるのは喫茶店のみだったそうだ。「専門店が増えても世帯消費が多いのは『カレーは家庭の食べ物』という考え方が、県民の根本にあるから」と話した。
鳥取県食のみやこ推進課の山本桂司課長はカレー調理の手軽さと、県民の生活実態を関連付けて説明する。総務省統計局によると、鳥取県の共働き率は54・9%(2017年時点)。山本課長は「共働き率が全国でも高い位置にあるため、家庭で手軽に調理でき、作り置きもできるカレーの支出金額が多いのでは。カレーの付け合わせで有名なラッキョウが特産品で、県民にとってカレーが身近な存在であることも一因かもしれない」と分析した。鳥取県のカレー人気の裏には、歴史的な要因から、共働き率といった社会的な要因まで、多様な要素が絡んでいるようだ。

鳥取県のブランドといえばカニやスイカ、梨が思い浮かぶが、それ以外にも人気の品目があることが、家計調査を通じて分かった。<下>では松江市の意外な人気の品目を紹介する。