干しガレイを作る生産者=浜田市港町、多田商店
干しガレイを作る生産者=浜田市港町、多田商店

 名高い浜田市の干しガレイの生産量が年々減っている。骨が硬くて多い上に平べったい体で身が少なく、消費者に敬遠されるようになったため。地元の水産関係者は缶詰や薫製といった新商品を開発し、カレイ復権を模索する。片や、普段食べつけない旅行客には今なお喜ばれるとして、活路を見いだす声もある。 (宮廻裕樹)

 「干しガレイがあまり喜ばれない」。水産加工品を製造販売するシーライフ(浜田市原井町)の河上清志社長が嘆く。

 かつて看板商品だった干しガレイの売上額は15年ほど前の1割に落ち込み、ノドグロやアジ、イカなどを含む干物全体の売上の1割にも満たなくなった。

 骨が硬くて多く、食べにくい上に、カレイ1匹に占める身の割合が4割程度と少なく、ごみが出やすい点が不人気の要因だという。

 浜田市誌によると、浜田の干しガレイ生産は大正期、捕れすぎて捨てられていたカレイの活用策として始まった。干物では静岡県・沼津のアジ、千葉県・銚子のサバと並ぶ名物だ。

 浜田での生産に支えられ、島根県は全国一の干しガレイ産地。農林水産省の統計によると、2019年の生産量は1905トンで、国内全体の36%を占める。

 ただ、ピークの1998年(8158トン)と比べると生産量は4分の1。県水産技術センター漁業生産部利用化学科の開内洋科長は、浜田名物でもあるノドグロやキンメダイなど高級魚の干物が出回るようになって「カレイの影が薄くなった」とみる。

▽干物だけでは駄目

 「骨を何とかすれば、いけるのではないか」とカレイの新たな加工品を模索する動きも出てきた。

 シーライフは2018年にカレイ水煮缶詰を発売。煮て、骨を軟らかくし「カルシウム豊富」とセールスポイントに変えた。カレイは浜田の水産加工業を支えた、いわば「功労魚」の一つだけに「干物だけでは駄目だ。何とかしたい」(河上社長)との思いは強い。

 沖合底引き網漁業の浜田あけぼの水産(浜田市原井町)は、子会社を通じて県水産技術センターと共同でカレイ薫製を開発。20年末に発売した。骨は取ってあり、カルパッチョやサラダにも使えて料理の幅が広がった。村山達朗取締役は「販売を始めたばかりで売上は微々たるものだが積極的にPRしたい」と話す。

▽あっさりヘルシー

 総務省家計調査によると、カレイの1世帯当たり購入量の都道府県庁所在地ランキング(2018~20年平均)で鳥取市1位、松江市6位と、山陰両県はカレイ好きの地。干しガレイにもなじみが深い。例えば、古里の味として再評価する仕掛けも考えられるのではないか。

 食べつけていない両県外からの旅行者には、干しガレイに新鮮な魅力を感じてもらえるとの見方もある。

 ホテル松尾(浜田市黒川町)は30年以上前から、朝食などにカレイの一夜干しを出している。ノドグロの干物とは対照的に、あっさりしてヘルシーな味わいが喜ばれており「こんなにカレイがおいしいとは」と感激する客もいるという。

女将(おかみ)の松尾恵美さん(59)は「地元の人は食べる量が減ったと聞くが、浜田に来た人に知ってほしい」と指摘。健康志向への訴求、浜田名物として旅行客へのアピール強化といった活路を示唆する。

 干しガレイ復権にも知恵を絞る余地はありそうだ。