全国トップ級にランクインする松江市民が好きな食べ物を調べると、地元ならではの食材がある一方、新型コロナウイルスの影響か意外なものが登場した。松江市民の最新の消費動向を追った。(Sデジ編集部・吉野仁士)
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2021年の家計調査結果(総務省統計局)では、都道府県庁所在地と政令指定都市の合計52市の品目別の年間平均支出金額(2人以上が住む1世帯当たり)が発表された。品目は飲食料品や衣服、娯楽に関する約800品目。また、2018~20年の各市の品目別支出金額(平均値)のランキングも発表している。
松江市で有名な食材と言えば、シジミ。宍道湖のヤマトシジミは全国的に有名で、島根県によると、全国のシジミの漁獲量は宍道湖のものだけで全体の約4割を占める。2021年の松江市のシジミの支出金額は全国1位の1461円で、2位の水戸市877円の1・7倍と断トツの1位。

シジミの支出金額が全国トップクラスなのは、なんとなく予想できたが、他にはどんな品目が全国上位なのだろう。
▼突如全国2位に? 躍進した品目は
2021年、松江市民がシジミ以外で、購入した金額が高かったのは牛乳。支出金額は全国2位の1万8096円、1位は千葉県の1万8910円だった。牛乳は各家庭で日常的に愛用されるが、全国上位になるほど松江市民が牛乳好きなイメージはない。他の市と何が違うのだろうか。

島根県農畜産課畜産室の加地紀之室長は「鳥取市が2020年まで支出金額トップクラスなのは知っていたが、松江市の順位が急に上がり、正直、驚いた」と率直に話した。鳥取県は白バラ牛乳が有名で、鳥取市は全国1位の常連だが、21年は1万6862円で8位。加地室長は鳥取市を上回る松江市の躍進に驚いた様子だ。
躍進の要因は「これから分析していく」とし「島根県の牛乳は県外に多く出ていくため、消費量より生産量の方が多い。県内消費が例年よりも増えたことはありがたい。2021年のような消費が続くよう、普及に取り組んでいきたい」と意気込んだ。
学校給食に出る「農協牛乳」で知られる牛乳・乳製品製造販売の島根中酪(出雲市平野町)によると、2020年度は新型コロナウイルスの流行による家庭消費が増え、牛乳の販売数量、金額はともに前年度比1%増えた。21年度は休校の影響で前年度比8%減(2月末時点)という。
島根中酪の担当者によると、牛乳生産者や乳業社でつくる一般社団法人Jミルクが過去に実施した消費者の意識調査で、島根県は牛乳やヨーグルトの家庭内消費が他県よりも高かったという。同法人が20年に行ったコロナ禍での消費者の意識調査では、牛乳は飲用だけでなく、家庭での料理やお菓子作りでの利用が増えたという見方もあった。
地元スーパーチェーン、みしまや(松江市雑賀町)商品部の小林秀雄部長(51)はコロナの流行以降、牛乳を含め食材や調味料を買う客の増加を感じ「巣ごもり効果で家庭料理の機会が以前より増えたとみられる」と消費現場の動向を話す。

新型コロナが流行し始めたころ、ホットケーキミックスがスーパーで売り切れになったこともあった。ホットケーキとともに子どもの好きなクリームシチューも牛乳を使用する。小林部長によると、みしまやでも21年、ホットケーキミックスやシチューの売り上げが伸びたという。
外食ができなくなった分、家庭で手軽に楽しめる料理に人気があったことが、牛乳消費を押し上げたかもしれない。

▼上位ランクインする調味料の数々
松江市の品目別支出金額を見ていくと、ある傾向に気付く。数ある品目の中で、調味料の支出金額は上位にランクインすることが多い。
2021年ではマヨネーズの支出金額が1507円で全国4位。ソースはお好み焼きで有名な広島市が1290円で堂々の1位だが、松江市は931円で8位で、4位以下はいずれも900円台の僅差だった。
3年間の平均値で見ると、しょうゆが2485円で3位、ドレッシングは2563円で4位と、全国トップクラスだ。
しょうゆ製造社44社が加入する、島根県醤油(しょうゆ)工業協同組合の杉本匡志事務局長(64)によると、島根県のしょうゆ製造社の数は全国で三本の指に入るほど多く、組合ができた1947年ごろには約200社が存在したという。

杉本事務局長は「島根県には昔からしょうゆやみそを決まった店で定期的に買う文化があり、家庭料理が多い風土だった」と話す。その上で、しょうゆは日本海で魚がよく取れ、刺身を食べる機会が多いことや、そばつゆで使われることが多い分「特に全国でも消費量が高いのではないか」と推察する。
島根県のしょうゆは他の地域に比べて甘く、料理の調味料に使いやすい点も、一つの要因として考えられるという。
新型コロナ禍で外食が減り、家庭調理の機会が全国で増えたことで、元々家庭料理が多かった松江市民の牛乳やしょうゆ、マヨネーズに使う支出が他地域よりも増え、今回の家計調査の結果に現れたのかもしれない。

家計調査からは松江市民は家庭料理が好きという傾向が分かった。傾向はもう一つあり、松江市の消費支出総額は全国でとりわけ低いということはないが、調味料以外の品目の支出金額は、ほとんど上位にランクインしなかった。これは特定の品目に集中してお金を支出せず、バランス良く買い物をしていると言えそう。堅実な松江市民の生活スタイルを垣間見ることができた。