突然だが、皆さんは学校給食の際に飲んでいた牛乳を覚えているだろうか。山陰両県でも地域によってメーカーは異なり、思い出もそれぞれだろう。記者は、第一、第三土曜の半日授業で帰宅前に飲んでいた牛乳が印象深い。6月は、酪農乳業関係者でつくる一般社団法人Jミルクが定めた「牛乳月間」。この機会に、山陰両県の牛乳事情に思いをはせてみようと思う。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 山陰両県の給食で現在出されている牛乳は、島根中酪(出雲市)の「農協牛乳」、木次乳業(雲南市)の「木次牛乳」、クボタ牛乳(浜田市)の「クボタ牛乳」、大山乳業農業協同組合(鳥取県琴浦町)の「白バラ牛乳」の4種類。2019年3月末で廃業した、安来乳業(安来市)の「やすぎ牛乳」も有名だ。

 安来市出身の記者はやすぎ牛乳で育ったため、4種類をいずれも意識しながら飲んだことがない。まずは全てを買いそろえ、この機会に味わってみた。

 新鮮さにこだわる農協牛乳は、原料乳を搾乳してから全て2時間以内に工場へ集めている。紙パックで飲む牛乳独特の風味に、思わず「あ~」と声が出た。まさにザ・給食牛乳、という感想だ。日本初のパスチャライズ(低温殺菌)牛乳とされる木次牛乳は、一般的な牛乳と比べて少し甘みがあるように感じた。味の好き嫌いが顕著な小学生には特に歓迎されそうだ。

 石見地方で根強い人気を誇るクボタ牛乳もパスチャライズ牛乳だが、木次牛乳が65度で30分殺菌なのに対し、こちらは75度で15分。味にも少し違いがあり、甘みが抑えられた分、コクが深くなっているように感じる。給食と合いそうだ。

 鳥取県を統べる白バラ牛乳は、「日本一老けない牛乳」として週刊文春にも取り上げられた。牛乳のうま味を阻害する「体細胞」の数が、全国平均の6割程度(牛乳1ミリリットル当たり)とされており、その味は「濃厚」の一言に尽きる。なお、記者宅の冷蔵庫には、白バラコーヒー牛乳がほぼ常時ストックされている。

 

▼供給業者の選定方法は
 このように供給業者は複数あるが、そもそも各地域で採用する牛乳はどうやって決まっているのか。

 島根県農畜産課によると、農林水産省の要綱に基づき、県が主に各市町村単位で業者の価格競争入札を毎年度行っている。落札した業者が、その地域、年度の給食用牛乳を一括して供給するというわけだ。鳥取県のメーカーは、県内全酪農農家が加入する大山乳業農業協同組合のみで、現在、入札は行っていない。

 両県への聴き取りを基に、どこがどの牛乳なのか一目でわかる「山陰牛乳マップ」を制作した。21年度現在のものだが、安来乳業の廃業があった安来市以外は、ここ数年変化していない。

 

本邦初公開の山陰給食牛乳マップ(2021年度現在)

 ご覧のように、山陰の牛乳は4勢力に分かれている。松江市のみ橋南、橋北でメーカーが二分されている点や、隠岐諸島も農協牛乳がカバーしている点などが興味深い。

 また、紙パック牛乳が県内ほぼ全域で使われている中、木次乳業では、供給する小中学校全58校のうち19校で今も瓶の牛乳を使っている。同社営業課の大家崇課長(45)は「大きくて重い瓶は落として割る児童もおり、安全な紙パックが主流になっていったのでは。奥出雲町など、生徒数が比較的少ない学校は瓶が多い印象だ」と明かす。持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みが各所で注目される中、容器が再利用できる点も長所の一つだ。

 

▼脳裏によみがえる「牛乳あるある」
 これだけ各地で特徴があると、地域によって思い出も異なるのではないか。思いをはせるため、まずは幅広い世代、出身の職場仲間に「給食牛乳あるある」を聞いてみた。

 

 「土曜の牛乳の時だけ、なんとなくみんな早飲みする雰囲気だった」(30代・安来市出身)

 記者自身の思い出である。普通の給食の日はおとなしい友人たちが、半日授業の土曜は異様なテンションで毎週、一気飲みに挑戦していた。そして、一部は直後に腹を下していた。余った牛乳は通常は回収されるのに対し、なぜか土曜だけはその場でじゃんけんでの争奪戦が繰り広げられた記憶もある。ちなみに、学校教育法改定により2002年から完全週5日制となったためか、今年の新入社員にはこのあるあるが伝わらなかった。寂しいものである。

 「牛乳パックの底面に時々、丸い点が印刷されており、そのパックを手にした人はラッキーだ、という風潮があった」(20代・米子市出身)

 いかにも小学生らしいあるあるだ。大山乳業農業協同組合によるとこの点は、パックの製造会社が大量製造する際、切り目の目印として一定の間隔で付ける物だという。ちなみに、やすぎ牛乳の底には1~5ぐらいまで数字が印字されており、友人とその日の数字の大きさで競っていた覚えがある。子どもの頃は皆、日々の暮らしの中にある小さなことに楽しみを見いだしていたのだろう。大人になって忙しさに追われる中、ハッと気付かされる。

 

 「三角パックには決まった折りたたみ方があった。完璧に飲み干してからたたまないと、結構な勢いで牛乳がストローから逆噴射した」(50代・松江市出身)

 前述の2人は四角パックだったが、どうやら40代ごろから三角パックの世代になるらしい。三角パックの世代は、皆一様に「手元にパックがあれば今でもたためる」と話す。逆噴射については、四角パックでも同様の現象が起こった。牛乳は乾くと強烈な臭いを放つため、何かの拍子に服に付いた日には極端に気分が落ちたのを覚えている。

 

 「中学の頃は、余った牛乳パックは職員用の冷蔵庫に入れられ、その日の部活動後に飲みたい人が飲んでよいことになっていた」(40代・益田市出身)

 中学生にもなると、さすがにじゃんけんの戦利品や、早飲みによる根性比べの材料といった幼稚な使い方はされない。奪い合わずとも必要とする者が手にすることができる、平和的かつ効率的な活用法が採用されている。進学校であることは間違いない。

 

 やはり地域、年代によって思い入れは多種多様のようだ。共通するのは、誰しもすぐに思い出を語れるほど、給食用牛乳に愛着を持っているということ。大山乳業農業協同組合営業課の金村政雄さん(38)は、「ただ飲むだけでなく、児童の間で独自の楽しみ方で親しんでもらえているのはうれしい」と笑う。

 

▼番外編・給食あるある
 社内で牛乳あるあるを聞いて回ったところ、昔の給食全般の話で想像以上に盛り上がった。せっかくなので、この機会に番外編としてまとめた。

 「基本給食を残してはだめだった。食べるのが遅い子は給食後の掃除の時間になっても食べていた」(50代・松江市出身)

 掃除の時間に合わせ、全員が自身の机を教室後ろに下げる中、1人だけが野菜やレバーなど不人気なメニューを泣きながら食べている光景は誰しも一度は見たことがあるだろう。記者は当時、脂っこい物が苦手で、豚のしょうが焼きを「豚肉にアレルギーがある」と担任にうそをついてまで残したことがある(今は大好きだ)。さすがにこの居残り給食はやり過ぎだという声が増えたのか、最近では多くの学校で残しても大丈夫となっているそうだ。

 

 「鳥取は島根のようにうどんや麺と汁が分けられていなかった。同じ鍋に入れられて教室に運ばれて来るため、食べる頃にはほぼ伸び切っていた」(50代・鳥取市出身)

 給食の五目ラーメンやうどんと言えば麺が袋に入っており、食べる際に袋から取り出し、汁に投下して食べるものでは。年代の違いかと思いきや、島根の同年代社員はちゃんと分けられていたという。ただ、記憶では袋入りの方も麺は麺、汁は汁と味が完全に分かれており、麺と汁のハーモニーを感じたことは無かったような気がする。

 

 「友人が牛乳を口にした瞬間に、面白いことを言ったり面白い顔をしたりして吹き出させていた」(50代・島根県邑南町出身)

 今思い返せば迷惑極まりないが、確かにそういう友人が一定数いた。小学生のあるあると言うより、小学生でなければ許されない行為だ。繰り返しになるが、衣服に付いた牛乳はかなり厄介な存在。当人同士は楽しんでいても、毎回洗濯する親は鬼の形相だったことだろう。

 

▼県外産牛乳になった時、住民の反応は
 誰しもが通った道なだけあり、給食用牛乳に関する多種多様なエピソードが飛び出た。幼少期にほぼ毎日飲んできた牛乳の味は、もはや我々の人格を形成する一要素だと言っても過言ではないかもしれない。

 余談だが、給食用牛乳の愛されっぷりがわかるエピソードが一つある。冒頭、鳥取県は供給業者の入札を行っていないと記したが、実は2014年度までは行っていた。廃止されたのは、同年度に入札制度を巡ってある「事件」があったからだ。

 県によると、...