ヤギの肉やミルクを使ったハンバーガーやジェラートを提供する珍しい飲食店「Lago SENTO(ラーゴ・セントウ)宍道湖北」(松江市浜佐田町)が、オープンから1年を迎えた。店の敷地内で飼育するヤギと利用客が触れ合える、家族連れに人気のスポットで、ゆくゆくは「日本一のヤギ牧場」を目指しているとのこと。1周年の機会に、全国を目指す地域のメェ~所(名所)を訪れてみた。(Sデジ編集部・吉野仁士)
▼ヤギのミルク×地元産品
店は宍道湖沿いの国道431号を、松江市役所から西へ約1キロ進んだ場所にある。ヤギの絵が描かれた看板と紺色の店舗、店舗横の飼育エリアでくつろぐ数頭の子ヤギが目印だ。

ヤギは時折「メェ~」という大きな鳴き声を上げたり、足元に生えた草を食べたりと自由に過ごしているが、人には慣れており、人が近づくと向こうから近寄ってくる。100円で餌やりも体験でき、仕切りの隙間から顔をひねり出して餌を食べようとする姿が、子どもたちから人気だという。愛らしい姿を見て癒やされようと、ヤギ目当ての人も多く訪れる。

店ではヤギの販売もしており、ペットして買っていく人も。松江市宍道町佐々布の自営業、酒井亜希子さん(40)は今年5月、体色が白、黒、茶色の雄ヤギ「クロ」をペットとして引き取った。生後5カ月半となった今、クロは近所の保育園の園児から大人気だという。酒井さんは「寝そべったり草を食べたり、おっとりとしたしぐさがとにかくかわいい」と魅力を話した。
店の看板商品の、ヤギのミルクを使ったジェラートは抹茶やラムレーズン、ブルーベリーといった10種類以上の味がある。他にもJAしまねのカボチャや地元酒造会社の酒かす、松江市美保関町で取れた、漢方薬の原料にもなるクロモジを積極的に使い、地元産品の発信にも努めている。

▼牛乳とは違う?ヤギのミルク
Lago SENTO(ラーゴ・セントウ)のほか、松江市内で飲食店を経営する株式会社「あやまち」の仙頭文子社長(38)は1周年を迎え「いろいろな人に愛される場になってきてうれしい」と目を細めた。
現在、ヤギは同市大垣町にある牧場で約40頭を飼育し、提供する食べ物に使うミルクや肉は全て飼育するヤギのもの。ヤギは妊娠から5、6カ月で出産するため、今後は飼育数を増やしていく予定だという。


ヤギの飼養者、研究者といった、ヤギやその生産物に興味のある人々でつくる全国山羊(ヤギ)ネットワーク(事務局・愛知県春日井市)によると、ヤギ乳は牛乳と比べて乳中の脂肪球が小さく、乳タンパク質が消化されやすいため、飲んでも下痢や消化不良を起こしにくい。また、コレステロール値を調節するタウリンが牛乳より多く含まれるため、健康面での効果も期待されている。肉は低脂肪、高タンパク質で、胃もたれしにくく食べやすい傾向にあるという。
せっかくなので、ジェラートの一番人気の濃厚ヤギミルク味と、好きな抹茶味を食べてみた。味は牛乳アイスと似ているが、後味が尾を引かない、さっぱりとした味わいに感じた。それに加えて何とも言えない香りがする。臭みとまでは言わないがヤギ特有の香りがあるようだ。

仙頭社長は「独特の味を、まだ味わったことのない人にぜひ食べてもらいたい」と呼びかけた。
▼国内最大規模の牧場に学ぶ
仙頭社長が店舗をオープンしたきっかけは、国内最大規模のヤギ牧場「川添ヤギ牧場」(高知県)と仕事で知り合ったことだった。
コロナ禍の流行が始まった2020年、仙頭社長が経営する飲食店は大打撃を受けた。新事業を模索する中で、コロナ禍で子どもたちが動物と触れ合えるスポットは市内に少ないことに気付きヤギ牧場を思い立った。
仙頭社長は名古屋市出身で、幼い頃、動植物園近くに住み、毎日のように通っていた。子どもがどれだけ動物を好むかは自分の経験でよく分かっていた。同年秋、鳥取県の牧場からヤギ80頭を買い取って新事業の準備をする中で、川添ヤギ牧場と知り合った。情報交換するうちにヤギのミルクや肉を使った店という柱ができた。
21年8月9日のオープン後から、ヤギと触れ合える珍しい店として地域で人気を集め、今では多い時は一日に400人が訪れるという。仙頭社長は今後、多様な種類のヤギを集めた牧場や、キッチンカーでの料理提供といった構想を練る。

川添ヤギ牧場の創業者が昨年、急逝したため、飼育されていた約2千頭のうちの一部を引き取った。創業者の遺志を継ぎ「日本一のヤギ牧場にしたい」と意気込んでいる。松江市に日本一のヤギ牧場ができたら、すごいことになりそう。
ラーゴ・セントウでは9月中旬からヤギの飼育エリアを拡張するほか、遠方から来る客が敷地内でキャンピングカーを使って車中泊できる「RVパーク」としての整備も進める予定という。営業時間は午前10時~午後5時半で毎週火曜は休業。