銭選作とみられる米国のボストン美術館所蔵の「山茶花図」(William Sturgis Bigelow Collection/Photograph Museum of Fine Arts,Boston)
銭選作とみられる米国のボストン美術館所蔵の「山茶花図」(William Sturgis Bigelow Collection/Photograph Museum of Fine Arts,Boston)
徐熙作とされる「雪柳鷺図」(ボストン美術館蔵、William Sturgis Bigelow Collection/Photograph Museum of Fine Arts, Boston)
徐熙作とされる「雪柳鷺図」(ボストン美術館蔵、William Sturgis Bigelow Collection/Photograph Museum of Fine Arts, Boston)
銭選作とみられる米国のボストン美術館所蔵の「山茶花図」(William Sturgis Bigelow Collection/Photograph Museum of Fine Arts,Boston) 徐熙作とされる「雪柳鷺図」(ボストン美術館蔵、William Sturgis Bigelow Collection/Photograph Museum of Fine Arts, Boston)

 松江藩の家老・乙部家が幕末に築いた中国絵画コレクションのうち、4作品が米国・ボストン美術館に収蔵されていることが分かった。同館で勤務した松江市出身の東京大学大学院生が発見した。同館は米国最大級の日本絵画収蔵館で、専門家は貴重な発見とする。 (広木優弥)

 所蔵されていたのは中国絵画と日本絵画が2点ずつ。松江松平藩第7代藩主・松平治郷(はるさと)(号・不昧(ふまい))の茶道美術コレクション「雲州蔵帳」に含まれ、後に松平家から乙部家に下賜(かし)された、宋から元代に活躍した銭選(せんせん)作とされる「山茶花(さざんか)図」がある。

 美術史学を学ぶ東京大学大学院生で、石橋財団の日本美術アシスタントキュレーターとして、2年間同館に勤務した竹崎宏基さん(29)=松江市出身、東京都杉並区=が2020年夏、同館の倉庫で山茶花図を調査中、付属文書に「乙部」や不昧を指す「大圓(えん)公」の記載を見つけた。

 同年冬にコレクションの研究を知り、松江市の村角紀子専門調査員(49)に情報提供、乙部家の旧蔵品と確認した。再度、館内の作品とリストを照合し、新たに3点がコレクション構成作品と特定した。

 山茶花図は明治10年代に乙部家の手を離れ、1886(明治19)年には米国の日本絵画収集家で、同館に多くの作品を寄贈したウィリアム・ビゲローの手にあった。岡倉天心が贋作(がんさく)と判断し、1世紀近く倉庫に眠っていた。また南唐初期に活躍した徐熙(じょき)が描いたとされる「雪柳鷺(さぎ)図」は、小浜藩・酒井家の旧蔵品を乙部家が購入。1880年代にビゲローが購入し米国に渡った。

 このほか、室町後期の相阿弥(そうあみ)画風で富士山を描いた、是庵(ぜあん)作とされる「富士三保(みほ)図」と、縁起がいいものとして近世の日本で好まれた〓和璞(けいわはく)の人物画が描かれ狩野正信作と伝わる「〓和璞図」の日本画2点があった。全てに乙部家旧蔵品の特徴である、更紗(さらさ)製の軸装や、桐の二重箱など「乙部仕立」が施されていた形跡があった。

 竹崎さんによると、作品の状態は良好。「大圓公と書いていなかったら気にも留めなかった。驚くと同時に、次はやはり地元で旧蔵品が見つかってほしい」と望む。

 調査を続ける村角さんは「『山茶花図』は乙部家が今も大切に持っていると思っていたばかりで、最初の連絡には本当に驚いた。今も昔も権力者や、経済的に余裕ある人の所に絵画が集まるというのは変わらない。海外に流出した事例となり、調査の視野を海外にも広げる必要性を感じた」と話した。

 

 乙部家の絵画コレクション 松江藩家老の一つ、乙部家が幕末から明治初期に収集した、中国絵画を中心とした絵画コレクション。10代当主可時(よしとき)が中心となり集めた。約200点のうち、現存が確認されるのは約65点。東京国立博物館所蔵の「紅白芙蓉図」など、国宝、重要文化財が複数含まれる。