ロシア軍の侵攻でウクライナ(人口約4350万人)から国外に脱出した避難民が300万人を超えた。国際移住機関(IOM)によると、戦闘などで家を追われた国内避難民が約650万人いる。国外への人の流れは止まらないだろう。
避難民の受け入れを決めた日本を含め、国際社会はこの人道危機に全力で対処しなければならない。
民間施設への無差別攻撃が激化し、ロシア軍が包囲するウクライナ南部マリウポリでは、市民の避難場所になっていた劇場やスポーツ施設が空爆で破壊され、病院が占拠されたと伝えられた。
ロシアはこれら施設への攻撃を否定している。だが世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、医療・保健施設に43件の攻撃があり、医療従事者を含む12人の死亡を確認したと国連安全保障理事会に報告。「いかなる紛争でも医療への攻撃は国際人道法違反だ」と訴えた。
ロシア軍は、ウクライナ軍部隊に降伏を迫る圧力として民間施設を攻撃していると考えられるが、言語道断であり、「戦争犯罪」を問う声が世界で強まるのは当然だ。
人道危機の拡大を止めるには戦闘停止が不可欠だが、停戦に向けた協議の成否は見通せない。協議で合意した「人道回廊」は一部の人々の安全な移動に寄与したが、十分には機能していない。
協議は話し合う姿勢を見せるポーズかもしれない。誤算があったとみられるロシア軍が態勢を立て直すための時間稼ぎの可能性もある。そうでないなら一刻も早く停戦を実現すべきだ。
戦争は直接的な武力攻撃の惨禍に加え、避難する人々から故郷を奪い、家族離散や教育機会の喪失といった傷痕を残す。避難民の苦しみを国際社会が受け止め、支援を尽くさなければならない。
ウクライナでは成人男性に総動員令が出ているため、国外に出るのは女性や子ども、高齢者が中心だ。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、当面の滞在先はポーランド198万人、ルーマニア51万人、モルドバ36万人などだ。
支援では国連機関とともに、欧州連合(EU)が中心的な役割を果たし、今後、EU全体で避難民の受け入れや支援を進める構えだ。ただ過去にシリア内戦による大量の難民流入が欧州の政治・社会の不安定化を招いたこともあり、国際社会全体で支える必要がある。
日本政府も人道的観点から受け入れを決めた。日本国内に身元を保証する親類らがいなくても、特例で入国を許可し、査証(ビザ)は「短期滞在」(90日)の在留資格から、就労可能な「特定活動(1年)」への変更も認めるという。
日本は難民認定される比率が先進国の中で極端に低い国だ。難民を大規模に受け入れた例は、1979年に定住対策を閣議了解したインドシナ難民(ベトナム、ラオス、カンボジア)の計約1万1千人にとどまる。
政府には、希望者の入国に支障がないよう迅速な手続きを求めたい。定住や長期滞在を希望する人への日本語研修や職業訓練の機会の提供など課題は多い。国内の自治体や企業からウクライナへの連帯として、避難民受け入れの表明が相次いでいるのは、心強い動きだ。政府は受け入れ先の調整や生活支援の準備を加速してほしい。