政府は、18都道府県に適用している新型コロナウイルスのまん延防止等重点措置を21日の期限で全面解除すると決めた。
過去最大の「第6波」は下火にはなったが、新規感染者数や死亡者数がまだ昨夏の第5波を上回る水準で収束とは言いがたい。それでも国内は緊急事態宣言もまん延防止措置も出ていない状況に2カ月半ぶりに戻る。
この機に政府は、欧米などの先行例を知りながら、第6波を防げなかった原因やまん延防止措置の効果を検証し、今後の対策に生かすべきだ。
岸田文雄首相は「可能な限り日常の生活を取り戻す」と経済社会の再生に意欲を示し、職場での濃厚接触者の特定や出勤制限を不要にする考えを示した。しかし首相自身が「オミクロン株の致死率、重症化率はインフルエンザより高い」と認めている。「最大限の警戒」は続ける必要がある。
まん延防止措置の解除は従来、新規感染者が減少傾向で医療負荷が低下していることが条件だった。政府は最近になって「病床使用率などは50%以上でも新規感染者が減少傾向」などの条件で解除可能とする新基準を示した。千葉、神奈川、愛知、大阪、兵庫の病床使用率はまだ50%超だ。これらの地域は新基準でなければ解除できなかった可能性がある。
感染力は強いが、重症化しにくいオミクロン株の特性に合わせたとはいえ、レース終盤でゴールラインを動かすような変更は「経済優先で解除の結論ありき」との疑念を持たれかねない。住民が不安を覚えないよう政府、自治体は十分説明を尽くすべきだ。
また政府は、まん延防止措置の下で求めてきた大規模イベントの人数制限を、会場で大声を出さないなどの感染対策を前提に撤廃すると決めた。これまでは2万人が上限だったが、大規模イベントでは観客のクラスター(感染者集団)がほぼ確認されていないことから、低リスクと判断した。
これは各地で数万人を動員するプロ野球開幕などに合わせた措置と見られても仕方あるまい。人の移動、交流が増える春の行楽シーズンが重なり、制限緩和で一気に感染がリバウンドしないか。より感染力が強いとされるオミクロン株の派生型「BA・2」への置き換わりも進んでいる。政府、自治体は必要な監視を怠るべきではない。
今回のまん延防止措置は、感染対策を十分実施している飲食店にも、知事が酒類提供停止を要請できるよう対応を強化した。だが第6波では、高齢者施設や家庭内に感染の中心が移った。飲食を軸とした対策がオミクロン株には適応しなかったのではないか。自治体や経済界から上がった「実態に合わない」との声を政府は重く受け止めてほしい。
一方、先行してまん延防止措置が終了している沖縄、山形などでは、解除後に新規感染者数が増加に転じたことにも注意する必要がある。まん延防止措置には、国民に危機感を共有してもらう「アナウンス効果」があり、「政策の効果は出ている」という首相の見解も一定程度は評価できる。
にもかかわらず、夏の参院選へ得点を稼ぐため首相が全面解除にこだわったとすれば本末転倒だ。気を緩めずワクチン、治療薬の国産化を軌道に乗せ「第7波」への備えを固めることに次の照準を合わせるべきだ。