年金額が4月分から0・4%引き下げられる。この減額分を穴埋めする狙いで、年金受給者を対象に一律5千円の臨時給付金を支給しようと与党が提案していたが、自民党の高市早苗政調会長は「ゼロベースで議論する」として白紙に戻すことを表明した。「高齢者優遇のばらまき」との批判も強く、当然の対応だ。

 年金の減額改定は2年連続。全ての年金受給者が受け取る基礎年金の月額は満額の場合、259円減って6万4816円。年間では減額が3千円を超す。一方で最近は食料品や燃料代などの値上がりが相次ぐ。物価上昇局面での年金減額は受給者世代にとって痛手となるため給付金を歓迎した人もいるだろう。

 有力とされた与党案は、2021年度の予備費を活用し、約2600万人を対象とする内容だった。低所得で住民税非課税の人は既に10万円の臨時特別給付金を受け取っているので除外し、そのほかの高齢者と障害・遺族年金受給者に支給するとしていた。

 だが、それでは高所得の高齢者も受け取る可能性があり、あまりにもばらまき色が強い。配るのが5千円と少額な割に事務経費は数百億円と見込まれ、非効率でもある。

 年金は偶数月に2カ月分を支給するので、減額された4月分の年金の受け取りは6月15日だ。同月下旬には参院選の公示が予想されており、「露骨な選挙対策」とやゆされたのも仕方あるまい。

 22年度の年金減額改定は決して「高齢者いじめ」ではない。今回の議論で残念だったのは、その点に関し政治家の認識の浅さが際立ったことだ。

 厚生労働省によると、改定の指標となる物価変動率はマイナス0・2%、賃金変動率はマイナス0・4%。以前はこうした場合、物価に合わせた改定としていたが、21年度に新たなルールを導入し、賃金が物価を下回るときは賃金に連動させて引き下げることにした。

 ルールを変えたのは、それまで改定に賃金下落を反映させてこなかった結果、年金の支給水準が本来より高止まりしたためだ。将来世代に配分されるべき年金の原資が今の高齢者に回ってしまう。新ルール導入の目的は、将来世代に適切な水準の年金を確保することなのだ。

 その意味では、このルール自体を問題視して批判する一部野党の主張には賛同できない。年金受給者にとって今回の減額改定は厳しいかもしれないが、日本の高齢者が将来世代の暮らしの劣化に目をつぶるほど利己的だとは思わない。

 それに、保険料を負担して年金制度の支え手となっている現役世代もコロナ禍での賃金低下で生活は苦しくなっている。与党の責任は、年金減額としたルールの背景を丁寧に説明し、世代を超えた「痛みの分かち合い」に理解を求めることだ。

 現在の年金制度には、少子高齢化に応じて支給を抑制する「マクロ経済スライド」という仕組みがある。今回は減額改定だったため実施されなかったが、仮に物価や賃金が今後上がっても、同スライドが適用されれば23年度以降の年金額はさほど上がらない。

 低所得高齢者への影響は深刻だが、安易に一時金を配るのではなく、制度面の改善を図るのが筋だろう。その際も、将来世代への目配りを欠かさないことが与野党双方に求められる。