国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第3作業部会が、産業革命前と比べた気温上昇幅を1・5度に抑えて気候変動の大きな影響を回避するには、世界の温室効果ガス排出量を遅くとも2025年までに減少に向かわせる必要があるとの報告書を発表した。

 気候変動が従来考えられていたより急速に進んでいるとした昨年8月の第1作業部会、このままでは気候危機が人類に取り返しのつかない影響を与えることになると警告した2月の第2作業部会に続き、三つの作業部会の報告書が出そろった。

 「今後、数年間の取り組みが地球の将来を決める」と科学者の指摘は明白だ。全ての国は温室効果ガスの排出を早急かつ大幅に減らすことを目指し、政策を根本から見直さねばならない。

 IPCCは、現在の温室効果ガスの排出状況や各国の政策、再生可能エネルギーなどの可能性や必要な資金規模など、気候変動対策に関する社会科学的成果を評価した。

 報告書によると、1・5度という国際目標の達成には、25年までに世界の排出総量を減少に向かわせることが不可欠。さらに30年に19年比で43%減という大幅な削減を実現したとしても、一時的に1・5度を超える可能性が高いとされ、目標達成は極めて困難だ。

 日本は世界第5の大排出国だ。これまで大量の温室効果ガスを出しながら「豊か」になってきたことの責任の大きさを自覚する必要がある。

 菅義偉前首相の時に決まった30年度の削減目標は「13年度比で46%減」だった。だが、これには「50%の高みに向け挑戦を続ける」との一言もある。

 各国は今年11月、エジプトでの国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)に、可能な限り強化した対策を持ち寄ることになっている。日本はそれまでに「50%削減」を新たな目標として位置付けるべきだろう。

 もちろんその達成は容易ではない。だが、野心的な目標という政治的なシグナルが出れば、社会や経済は大きく動く。多くの国でこの手法が取られており、日本も「50年に脱炭素」という野心的目標によって、取り組みが大きく進んだことを経験済みだ。

 一層の排出規制や省エネ基準の義務付け、諸外国に比べて極めて低額な炭素税の拡大といった政策が、削減量上積みの裏付けとして必要になる。

 IPCCは、既存のものと現在計画されている化石燃料インフラが今後排出する二酸化炭素の量が非常に多く、これが1・5度目標達成の障害となることも指摘した。日本の企業や金融機関は、化石燃料関連の投資を早急にゼロにすることが求められる。

 一連のIPCC報告が指摘するのは、このままでは今の若者や、まだ生まれていない次世代の人々が、温室効果ガスを大量に出すという現世代の行いによって、より大きな影響を受けるという不公正の存在だ。

 今、気候変動対策をなおざりにし、そのツケを次世代に回すことは、将来世代の可能性を奪うことにつながる。

 もちろん対策には巨額の資金が必要だ。だがそれは「多大なコスト」ではない。深刻な気候変動から、現在と未来の人々を守るための有意義な投資なのだ。