コロナ後遺症とみられる味覚と嗅覚の異常に、半年以上悩まされているという男性
コロナ後遺症とみられる味覚と嗅覚の異常に、半年以上悩まされているという男性

 山陰両県の新型コロナウイルスの累計感染者が4月上旬、ともに1万人を超えた。感染者の中には、味覚や嗅覚の異常、息切れ、けん怠感といった後遺症に苦しむ人がいる。感染から半年以上、後遺症に苦しむ松江市内の40代会社員男性が取材に応じ、症状のつらさや感染対策の重要性について訴えた。(Sデジ編集部・吉野仁士)
 

 男性は昨年9月、コロナ陽性になり、当時から今まで、嗅覚と味覚がうまく機能しない状態が続いている。味覚は甘い、辛い、酸っぱい、しょっぱいといった大まかな感覚しかなく、嗅覚は今まで匂ったことがないような一定の匂いをずっと感じ続けているという。

 男性によると、アイスを食べて「甘い」ということは分かるが、バニラ味かイチゴ味かは判別できない。匂いの強い消毒液と香水を液体状で並べると、区別がつかず、水と酒も、飲まないと分からない。また、焼き肉や揚げ物の匂いといった、これまでならおいしそうと感じるはずの匂いをひどく不快に感じるという。

 息切れやけん怠感の症状はないが、頻繁に物忘れをするようになったほか、症状が長続きすることに対する不安にもしばしば襲われる。

取材に応える男性。味覚異常については「食べた物の味がすることは分かるが、本来の味とは違う。『うまみ』が無くなった感じだ」と語る

 男性は「今の状態では味見ができないので料理が作れないし、食事も楽しめない。また、ガス漏れや火災の焦げ臭さにもとっさに気付けない危険性があり、怖い」と不安な思いを口にした。

 

 ▼1時間の会合で感染

 後遺症の苦しみに加え、男性がコロナに感染してから思うのは、同居する妻と小学生の子ども2人の家族や、会社に迷惑を掛けたことに対する申し訳なさだという。

 男性は昨年8月末、知人との飲食を伴う会合に参加した。感染者が増えてきた時期で、妻からも参加しないように言われたが、誘いを断り切れず、最初の1時間だけ参加することにした。会合で、正面の席の知人が「体調が悪く熱っぽいが、検査では陰性だった」と話したのを聞き、不安に思いながらも、1時間ほど知人たちと飲食と会話をし、帰宅した。

 不安は的中した。会合から2日後の仕事中、喉に違和感があり、翌日には体の節々が痛んだ。おかしいと思いつついつも通りに過ごしたが、翌日になっても症状が変わらなかったため、会社を途中で早退し、夜には熱が出た。次の日に医療機関を受診し、検査で陽性が判明した。

男性が参加した会合のイメージ。男性は飲食の際にマスクを外し、そのまま知人と会話していたといい「話す時にはマスクを付けるべきだった」と悔やむ

 同じ会合で近くの席にいた数人と、会合後の2次会で使った店の利用者にも感染者が出たという。「発熱の時点でコロナだろうなと思った。家族にうつしたらどうしよう、会社にどう説明しようという二つで頭がいっぱいだった」と振り返る。

 男性は陽性判明の翌日は入院調整のために自宅で待機し、その翌日に入院した。

 

 ▼家族や同僚社員にも大きな影響

 会社へは当初、感染したことに対する批判を恐れ、悪いと分かりつつも、コロナに感染したことを言わずに休みを取ろうか迷ったという。結局、感染拡大を防ぐ必要があると思い直し、陽性が判明した日、会社に陽性になったことを伝えた。

 男性の陽性判明で、会社は一時休業に。男性と席が近い社員は接触者として陽性検査をし、社員の中には結果が出るまでの一日、家族がいる自宅に帰れず、ホテルなどで1人で過ごすことになった人がいたと、後から聞いたという。

 また、男性が入院した3日後、濃厚接触者として仕事を休んでいた妻から「発熱した」と連絡があった。体調に異常を感じて以降、家では家族とは隔離して過ごしていたが「妻も感染した」と直感した。しかし、妻も入院すると、小学生の子どもを世話する人がいなくなる。無理を承知で妻に「自分が退院するまで耐えてくれ」と頼み、男性が10日間の入院生活を終えて家に戻った後、妻が宿泊療養施設に入った。その後、子ども2人の感染も判明し、妻と子どもたちは同部屋で療養することになった。妻は発熱の症状があったが、子どもたちは無症状で、いずれも10日間で退院したという。

「自分だけならまだしも、周囲の人間に大きな迷惑を掛けたことが申し訳ない」と話す男性

 「自分が感染したことで、多くの人に迷惑を掛けた。本当に大変なことをしてしまったと、後から悔やんだ」。男性は短時間の会合なら大丈夫、という甘い認識でいたことを悔やみ続けている。

 

 ▼後遺症、有効な治療方法は?

 男性が味覚と嗅覚に異常を感じだしたのは、入院してから3日経過した頃。病院で出された弁当を食べて、味や香りを感じにくいことに気付き、それ以降ずっと味覚と嗅覚はそのまま。また、男性は入院中に肺炎を発症し、点滴で栄養補給する生活を5日間続けたという。

 退院後は医療機関を回り、神経系に作用するとして薦められた、ビタミンB2や亜鉛の摂取を続けている。当初は医師に1~3カ月程度で治ると言われたが、半年が経過した今も異常を抱えたままだ。

 島根県立中央病院(出雲市姫原4丁目)感染症科部長の中村嗣医師(58)は、コロナの後遺症の症状に息切れやけん怠感、男性のような味覚や嗅覚の異常を挙げ「正直に言うと、明確な治療方法はないのが現状」と説明する。

コロナなどの感染症に詳しい中村嗣医師(資料)

 現段階で後遺症患者にできる治療は対症療法で、表面化した症状を緩和する治療になる。息切れに悩む人には酸素供給機器を貸し出し、嗅覚や味覚異常に悩む人には内服薬や漢方薬を処方するといった手段がある。ただ、こうした治療が完治につながるかははっきりせず、結局は自然回復を待つしかないという。

 中村医師は後遺症の症状に加え、長期間、治らないことで精神的に落ち込む人が多いといい「後遺症患者に対しては対症療法で症状を和らげつつ、経過を見るとともに、精神面のケアを続けていく必要がある」と話した。後遺症の原因についてはコロナ感染中、味覚や嗅覚の神経に正常な刺激が伝わらないことで脳が萎縮し、神経系に影響を及ぼすといった仮説はあるが、明確には分かっていない。中村医師は「コロナはまだまだ不明な点が多く、一度感染すると将来的にどんな後遺症が残るか分からない。軽症、無症状があるからといって油断せず、まずは感染しないことを第一に考えてほしい」と、気を引き締めるよう呼びかけた。

 男性は「もしかしたら一生治らないかもしれない、という不安は常にある」と明かす。自身の経験から「コロナの後遺症は本人にしか分からない苦しみ、不安がある。感染することで、自分だけでなく周囲の多くの人に迷惑を掛けることにもなる。不注意で感染した自分が言うのはおこがましいが、警戒を緩めず、感染リスクのある行動は絶対に取らないようにしてほしい」と注意を促した。

男性は「自分のように後遺症に苦しむ人は、回りの目が気になって言い出せないだけで本当はたくさんいると思う」と強調した。当事者が悩みを打ち明けやすい世の中になっていくことも大事だ

 

 

 後遺症に悩む人向けに、島根県は入院していた医療機関やかかりつけ医への相談を勧めるほか、各保健所内にある、しまね新型コロナウイルス感染症「健康相談コールセンター」で相談を受け付ける。鳥取県は県内各保健所に相談窓口を設置し、後遺症専門外来を県立中央病院(鳥取市)、県立厚生病院(倉吉市)、鳥取大医学部付属病院(米子市)に設け、対応する。

◯島根県
・しまね新型コロナウイルス感染症「健康相談コールセンター」
松江保健所(松江市、安来市)0852-33-7638
雲南保健所(雲南市、奥出雲町、飯南町)0854-47-7777
出雲保健所(出雲市)0853-24-7017
県央保健所(大田市、川本町、美郷町、邑南町)0854-84-9810
浜田保健所(浜田市、江津市)0855-29-5967
益田保健所(益田市、津和野町、吉賀町)0856-25-7011
隠岐保健所(海士町、西ノ島町、知夫村、隠岐の島町)08512-2-9900

◯鳥取県
・相談窓口
鳥取市保健所(県東部)0857―22―5625
倉吉保健所(県中部)0858―23―3135
米子保健所(県西部)0859―31―0029

・後遺症専門外来
県立中央病院(県東部)0857―26―2271
県立厚生病院(県中部)0858―22―8181
鳥取大医学部付属病院(県西部)0859―38―6692