新型コロナウイルスのワクチン接種を受ける子ども(右)=鳥取県智頭町智頭、智頭病院
新型コロナウイルスのワクチン接種を受ける子ども(右)=鳥取県智頭町智頭、智頭病院

 5~11歳を対象にした新型コロナウイルスのワクチン接種が3月上旬から、山陰両県で始まった。国内での子どものワクチン接種は始まったばかりで、接種するかどうか悩む保護者は多い。感染症の専門医に子どもの接種の考え方について聞いた。(Sデジ編集部・吉野仁士)
 

 山陰両県によると、5~11歳の接種対象者は、島根県が約4万人、鳥取県は約3万5千人。接種は、島根県が松江市などで7日から、鳥取県が智頭町で4日に始まった。

 智頭町では接種対象者309人のうち、接種を希望したのは約半数だったという。

山陰両県でのワクチン接種開始日の4日、鳥取県智頭町で接種を受ける子ども(中央)。この日は子ども60人が接種した

 松江市内の40代男性は既に2回の接種を済ませたが、小学4年生の息子(10)と娘(10)には副反応の不安から、接種はしないつもりという。自身の接種の時を振り返り「大人の自分でも熱が出て大変だった。子どもがもしも同じ容体や、大人より重い反応が出たらと思うと怖い」と話した。ただ、コロナの後遺症に悩まされる人の報道を見て「後遺症に悩まされるよりは接種した方がいいのだろうか」と、迷いがある。

 男性は「子どものためにどうするのが正しいのか、分からないことが多い」ともどかしさを話した。

 

 ▼未解明のコロナ後遺症

 専門医から見て、子どもの接種をどう考えたらいいのか。

 島根県立中央病院(出雲市姫原4丁目)感染症科部長の中村嗣医師(58)は「コロナにかからないに越したことはない。体質的な問題がある人以外は、子どもでも接種した方がいい」と言い切る。

子どものワクチン接種について見解を述べる中村嗣医師

 中村医師が接種を勧める大きな理由は、新型コロナウイルスの全容がまだ解明されていないからだ。中村医師は「感染した時は症状が軽くても将来、何か後遺症を抱える可能性がある」と警鐘を鳴らす。

 現在、流行するオミクロン株は従来の変異株よりも感染力が強い半面、重症化や死亡に至る確率は低いことが分かっている。特に子どもは大人と比べてさらに重症化しにくいという。

 一方で、全国ではコロナに感染したことで、さまざまな後遺症の症状が報告されている。体のだるさ、息切れ、味覚や嗅覚の障害、集中力が続かない―。中村医師によると、米国疾病予防管理センターの研究で、コロナに感染した成人は健康な成人と比べて、全体的に脳の大きさが萎縮したことが分かったという。さらに長い目で見た時、別の後遺症を発症する可能性もあるそうだ。

 特に嗅覚の神経は脳に直結するため、中村医師は「ウイルスの影響で鼻の神経に正常な刺激が伝わらないことで、脳にも影響が及んだのでは」と推測する。「ウイルスの全容が分からない以上、他の神経系や血管系にどんな影響が出ても不思議ではない。重症化しにくいからというだけでなく、将来的な危険性も加味した上で接種を判断してほしい」と中村医師。どんな症状を引き起こすか分からない未知のウイルスに感染しないため、ワクチンで免疫力を高めておくのが重要という。

 

 ▼副反応、大人と同程度か

 親が子どもに接種をさせる場合、一番気になるのは副反応だろう。子どもにはどのような副反応が想定されるのだろうか。

5~11歳の小児に接種される米ファイザー製の新型コロナウイルスワクチン。量は12歳以上と比べて3分の1程度という(資料)

 中村医師によると、日本の子どもの接種は始まったばかりで、効果や副反応についてはこれから精査される段階。米国では2021年11月から子どもの接種を始め、大人と大きく変わらない程度の発症予防の効果と副反応がみられたといい、日本の子どもも「基本的に同程度と考えられる」とした。

 症状としては接種箇所の痛みや発熱、けん怠感、頭痛が挙げられる。中村医師は現時点で、日本の子どもで重い副反応があったという報告は聞いていないという。

 年齢にかかわらず、一部の人にはワクチン接種によってアナフィラキシーと呼ばれる、重度の過敏反応を起こす可能性がある。接種会場で医師や救急車が待機するのは、このためだ。

出雲市内に特設された接種会場。万が一に備え、複数の医師が会場で待機する

 アナフィラキシーの懸念がある子どもは接種を控えるべきかもしれないが、中村医師は「1人が接種できなくても、回りの人が接種することで間接的に感染のリスクは減らせる。社会の接種人数を増やすことが、接種できない人を守ることにもつながる。医師としては積極的に接種してもらいたい」と呼び掛けた。

ワクチン接種に関する情報を示す中村医師。海外では子どもの接種が徐々に進むが、国内での情報はまだ少ない

 島根県健康福祉部の公衆衛生医師、谷口栄作医療統括監も中村医師と同様の考え。「米国疾病予防管理センターの研究で、接種をした海外の5~10歳は12歳以上と比べて、副反応の報告が少なくなりそうだという見立てがある。今のところ、副反応に対して重大な懸念はない」とデータを示して説明した。

 子どもが接種する意義について「集団免疫の論理で言うと、多くの人が打てば打つほど回りの人の感染リスクが減る。ただ、接種については子どもの体質などを考えた上で、保護者に判断してもらいたい」と呼び掛けた。現時点では、子どもの副反応が大人と比べて特に重いということはないようだ。

 

 ▼発熱あっても冷静に見守って

 副反応は体質によって異なる可能性があり、心配は残る。もし副反応で子どもが発熱した場合、どう対処すればいいのだろうか。

 中村医師は「基本的にはゆっくり休ませておくだけでよい」と、冷静に見守ることを勧める。大人が発熱した場合は解熱剤で対処できるが、薬に慣れない子どもの場合、どの薬が効果的か分からない上、体重によって使用量が変わる。むやみに薬を飲ませることは勧めないという。

ドラッグストアなどで売られている解熱剤。大人は問題なく服用できるが、子どもの使用はできるだけ控えた方がよさそうだ

 副反応の軽重を見極める明確な基準はない。中村医師は子どもの様子が普段と違い、ぐったりしていたり、水が飲めなかったりといった状態の場合は、すぐに保健所や医療機関に相談するべきだと指摘した。「接種をしたことで発熱といった反応が出るのは、免疫反応としては自然。仮に熱が38度出ても、子どもが元気そうなら心配はいらない」と中村医師。子どもにいつもと違った様子がないかだけ気を付ければ、発熱しても大きな心配はないという。

 

 東京都など都会地の感染者数は下降傾向で、第6波のピークは過ぎつつあるとされる。ただ、島根、鳥取両県の1日の感染者数は、いまだに100人を超える日があり、安心できない。

 山陰両県では子どもの接種に加え、18歳以上の3回目接種も始まった。後遺症や副反応について理解した上で、ワクチン接種を考えたい。

 

【参考】山陰4市の5~11歳のワクチン接種スケジュール(3月18日時点)

<松江市>
・集団接種(1回目)
3月7日
3月14日
4月11日
4月18日
4月25日
以降の日程は調整中

・個別接種
3月14日から指定の医療機関で順次実施中

<出雲市>
・集団接種(1回目)
3月13日
3月20日
3月27日
以降の日程は調整中

・個別接種
3月7日から指定の医療機関で順次実施中

<浜田市>(集団接種なし)
・個別接種
3月5日から指定の医療機関で実施中
これまでに開放した予約枠約500が既に埋まっている

<米子市>(集団接種なし)
・個別接種
3月22日から指定の医療機関で実施