新型コロナウイルス第6波の影響で人通りが少ない出雲大社前の神門通り(資料)
新型コロナウイルス第6波の影響で人通りが少ない出雲大社前の神門通り(資料)

 新型コロナウイルスのオミクロン株が全国で感染拡大し、山陰両県でも感染者数は1月中旬から2月上旬にかけて連日100人前後で推移した。これまでの感染拡大と比較すると、今回の第6波は特に若い世代の感染者が多い。医療関係者や両県担当者に現状と対策を聞いた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

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 今月3日、全国の一日の感染者数が初めて10万人を超えた。第6波の収束は見通せない状況だ。島根大医学部付属病院(出雲市塩冶町)呼吸器・化学療法内科の呼吸器専門医、礒部威教授(61)は「1月以降に国内で感染が確認された新型コロナウイルスはほとんどがオミクロン株」という。

 礒部教授によると、オミクロン株の特徴は従来の5倍と言われる高い感染力と、ワクチンを接種していても感染する例がある点。症状はウイルスが肺の深くまで行かず、気管支あたりで増殖するため、重い肺炎を起こす可能性は昨年までの変異株よりは低いが「重症化する際の速度は従来株よりも速い。普通の風邪やインフルエンザとは全く違う」と注意を呼び掛ける。

 感染を抑える手段について礒部教授は「マスク着用や換気の徹底で感染自体を防ぎ、少しの体調異常から感染を早期に発見し、拡大を防ぐこと。『明日にも自分が陽性になるかもしれない』と思い、相当な注意を払わないと(感染の回避は)難しいだろう」と、厳しい見通しを示した。

 

 ▼減少傾向だった山陰両県

 山陰両県の感染者数は第5波(2021年6~9月)のピークだった8月以降、12月下旬にかけて減少を続けた。

2021年8~12月の山陰両県のコロナ感染者。年の後半はほとんど新規感染者が確認されなかった

 島根県の感染者数は8月に629人、9月251人、10月101人、11月13人。12月は27日まで1人。感染者の減少傾向や政府の方針を受け島根県の丸山達也知事は、11月に飲食店での利用人数や時間の制限を撤廃したほか、年末年始の帰省自粛を求めない方針を示した。

 鳥取県は8月671人、9月193人、10月31人、11月1人。12月は0人と、ほぼ収束したような状況だった。

2022年1月の山陰両県の新規感染者を表したグラフ。中旬以降、オミクロン株が猛威を振るい、感染者が100人を超える日も珍しくなかった

 年末年始を経て状況は一転。両県とも感染者が急増した。島根県では12月30日、県内初のオミクロン株が確認されて以降、感染者が日ごとに増え、1月12日には103人と初めて100人を超えた。その後も新規感染者の高止まりが続き、27日、知事が飲食店に対して営業時間短縮を要請できる「まん延防止等重点措置」を、政府が適用した。

 鳥取県では1月4日に1カ月以上ぶりの新規感染者が判明し、6日にオミクロン株が初めて確認された。27日には過去最多の196人が感染し、島根県のような「まん延防止」の適用はないものの、厳しい状況が続く。

 ▼島根県、保健所の態勢強化に重点

 島根県が第6波に備えた感染防止策として力を入れたのが保健所の態勢強化。島根県感染症対策室によると、感染者の急増によって一時期、保健所の職員が感染者の住所や症状、行動歴を聞き取り、濃厚接触者を突き止めて感染拡大を防ぐ「疫学調査」が難しくなったという。

 対策として県職員だけでなく、保健師や看護師の免許を持つ職員がいる市町村、島根大、県立大からも短期と中期に分けて人員を派遣して対応している。県感染症対策室の田原研司室長は「重症化の危険性が高い高齢世代の感染を抑えるためにも、必要に応じて保健所に応援を出し、調査体制を維持したい」とした。

出雲保健所の逼迫状況を説く中本稔所長。新規感染者の急増により、一時、職員の疫学調査が追い付かなくなった(資料)

 オミクロン株は若い世代への感染が多いことが特徴。県感染症対策室によると、12月27日~2月6日の期間の年代別感染者の割合は、10歳未満が15%、10歳代が17%、20歳代が15%で、30歳未満の感染者が全体の47%と、約半数を占める。

 地域別の新規感染者の7日移動平均では、松江保健所管内が1月30日~2月6日に連日30人前後、出雲保健所管内は同期間で20人程度と、県東部での感染確認が目立つ。

 県央保健所と益田保健所管内は、2月以降はほぼ10人未満。浜田保健所管内は1月16~23日には移動平均が40人以上の日があったが、1月30日~2月6日は一日15人程度とやや落ち着いた。

 児童や生徒といった若い世代から家族に感染し、感染が拡大する事例が多い。県はいち早く出雲、江津、浜田、益田の4市と邑南町に、小中学校と県立高校の部分休校を呼び掛けた。1月21~31日に休校を実施し、新規感染者は27日確認分で11日ぶりに100人台を割り込み、30日には50人台と一定の効果が見られた。

休校についてウエブ会議で話し合う、島根県の丸山達也知事と4市1町の首長(資料)

 だが、今後も若い世代から中等症以上になるリスクが高い高齢者へ感染が広がる可能性がある。田原室長は「2月は高齢者への3回目のワクチン接種を加速させ、高齢者福祉施設の職員向けの啓発活動に力を入れる。高齢者に感染を広げないため、家庭内感染を引き起こすリスクが大きい大人たちが、責任を持って感染防止するよう呼び掛け続ける」と気を引き締める。

 ▼鳥取県では保健所サポートの特命チームも

 鳥取県でも保健所業務の負担軽減を見据えた対策に重点を置く。1月中旬から、感染者発表の際の情報公開は症状や管轄する保健所名のみとし、居住地や年代、性別、職業は除くように決めた。職員の負担軽減のためで、年代別と性別、居住地の感染者の人数は過去1週間分をまとめて公表する。

 28日、保健所業務を支援する特命チームを立ち上げ、感染者が確認された学校や保育施設の検査対象者のリスト作成、検体採取の調整、臨時休業の判断の助言などをする態勢を整えた。鳥取県新型コロナウイルス感染症対策推進課の荒金美斗課長は「保健所業務を維持するための措置。感染状況はその都度分析し、公表していきたい」と話した。

鳥取県の感染状況や、保健所業務を支援する特命チームについて説明する平井伸治知事(資料)

 1月以降、鳥取県の感染者の増加は特に県西部で顕著で、米子保健所管内が一日の新規感染者の6~7割を占めた。県は感染を抑えるため、県西部の米子、境港の両市に、1月27日~2月3日、外出自粛を要請した。平井伸治知事は2月3日の定例会見で「県西部では子どもたちの世界を通じた幅の広い感染爆発が起きているのではないか」との見方を示した。

 米子市は保育施設の利用を控えるよう呼び掛けたほか、米子市教育委員会は1~13日の期間、市内の公立小中学校全34校で分散登校、授業を実施中。荒金課長は「感染が多かった米子保健所管内は、前週比で見ると減少傾向にある。今後も特命チームによる感染者の封じ込めを図りたい」とした。
 

 全国で人口10万人当たりの感染者数が最少の岩手県でも、第6波の感染者が増加し、これまで感染者全員を入院、宿泊療養としてきたが、2月1日から軽症者や無症状者の自宅療養を開始した。岩手県は県の呼び掛けに、意識の高い県民が応え、人口当たりの感染者数が全国で最も低い。

 山陰両県では、感染拡大のピークは過ぎた感があるが、島根県では感染者数の減少スピードが鈍化しているなどまだまだ安心できない。若い世代で感染が拡大し、施設入所や入院中の高齢者が感染し、重症化するのは、新型コロナウイルスが国内で確認された時から予測される最悪の事態だ。有効な感染防止の対策がない中では、人口当たりの感染者数が全国で最も低い岩手県の取り組みは大いに参考になる。

 感染力が強い第6波では県民一人一人があらためて感染防止の意識を持ち、最大級の危機感を持って感染防止に当たりたい。近づいてきた春を笑顔で迎えるために。