「何でも興味を持って実践する人だった」。25年前、柳生博さんを島根県立三瓶自然館サヒメルの名誉館長に迎えた元県職員の佐藤仁志さん(72)=出雲市馬木町=は、自然を愛し、年を重ねても探究心が尽きることのなかった故人との思い出を語り、人柄をしのんだ。
1995年、動物番組「生きもの地球紀行」でナレーションを務めるなど幅広く活躍していた柳生さんを講演会の講師として招いた。それが出会いだった。
後日「柳生さんは三瓶を気に入ったようだ」と小耳に挟んだ。県外の講演でたびたびサヒメルの話をしているという。全国から数多くある誘いを断っていると聞いた名誉館長の就任を引き受けてくれ、97年に着任。サヒメルがうたう「全県フィールドミュージアム」を体現するように県内を講演して回った。
道中、じっと眺めていた車窓の景色に、次から次へと「あれは何だろう」と質問。聞かれる側が、毎回へとへとになるほどの熱心さだった。
講演だけで満足する人ではなかった。島根県津和野町の野中地区では、休耕田の草刈りに参加。草刈り機を手にし、住民たちと一緒になって汗を流した。
「俳優だけど、飾らない性格で、住民の反応もよかった」
訃報を受け、17日に山梨県北杜市の自宅を弔問。数日前まで、自分が植えたカタクリの花を眺めるなどして穏やかに過ごしていたと聞いた。
「最期まで大好きな自然の中で過ごせて本望じゃないかな。兄貴でもない、おやじでもない、親分みたいな存在だった。長らくありがとうございましたと伝えたい」。名誉館長就任以来の親交を振り返り、静かに目を閉じた。
(平井優香)