短歌 西基宜選

猪(しし)よけの柵吹き抜ける強風の侘びしき里に虎落笛聞く       雲 南 落合 溥之

 【評】せっかく稔った山間の稲田で猪のぬたを打った跡を見かけたことがあります。猪除(よ)けの柵を冷たい烈風が吹き抜けて鳴らす虎落笛。生まれ育った里ながら言い知れぬ侘(わび)しさを感じた一瞬。

唐突に逝きし貴女(あなた)に惜別の短歌(うた)を詠まんに言葉浮かばず      松 江 飯泉 攝子

 【評】老若を問わず、人の命は一寸先が分からない。明日を夢見る暮らしにも、朝(あした)に紅顔あって夕べに...