政府、与党は物価高騰に対応する緊急対策を固めた。目玉はガソリン価格を抑える補助金で、金額を増やし期間も延ばすため補正予算案を編成する。物価高の影響を受けやすい低所得世帯などへの支援は欠かせない。しかし手厚い燃油補助は、車を持たない人との不公平や財政負担など問題が多い。価格抑制策は「ばらまき色」を排し、一時的、限定的とすべきだ。
対策は原油高対策、食料の安定供給、中小企業支援、生活困窮者支援の4本柱で構成。政府は26日に発表する見通しだ。
中でも、ロシアのウクライナ侵攻で高止まりするガソリンなど燃油価格対策が柱となる。石油元売り会社への補助金で小売価格を抑える事業を拡充。現在は上限で1リットル当たり25円の補助を35円に増やす。合わせて、目標とするガソリン価格を今の172円から168円に見直し、実質的な値下げを図るという。補助は9月まで続ける方針だ。
補助は当初、上限5円で3月末までの予定だったが、価格高止まりでなし崩し的に拡充・延長される事態となっている。
ガソリンの平均小売価格は足元で1リットル170円台前半にあり、補助の効果が表れている点は認めよう。車が生活に不可欠な地域では恩恵を感じる人が多いだろう。
だが、この政策に負の側面があることを忘れてはならない。
今回、補助対象に航空機燃料が加わることもあり、1カ月で約3千億円が必要という。長期化すれば財政負担がかさむ上、価格抑制が常態化し補助を打ち切りにくくなる。補助はそもそも市場価格をゆがめる介入だ。安易な延長を繰り返さず、終了の目安を今から国民へ示しておくべきだ。
価格抑制の結果、ガソリン需要を喚起してしまう問題も軽視できない。間近に迫った大型連休ではレジャー需要が拍車をかけるだろう。温暖化防止のため化石燃料の縮減を図る中で、その流れには逆行する。
対策にはこのほか、低所得の子育て世帯向けの子ども1人当たり5万円の給付や、中小企業の資金繰り支援、食料の安定供給のための畜産業支援などが盛り込まれた。
みずほリサーチ&テクノロジーズの試算によると、年収300万円未満の世帯における食品などの値上がりの家計負担率は、1千万円以上の世帯の約4倍になるという。支援は低所得・困窮世帯に的を絞るべきであることを示しており、対策は理解を得られよう。
政府は、対策の財源として2022年度予算の予備費から約1兆5千億円を支出。加えて2兆5千億円超の22年度補正予算案を編成し、燃油対策に1兆円余りを投じる方針だ。今の「新型コロナウイルス対策予備費」は改称し、使い道を拡大できるようにする。
国の支出は目的を明示した国会の議決が大原則であり、予備費はあくまで例外だ。度重なるコロナ対策で政権の「ポケットマネー」のように予備費が使われるようになったが、財政民主主義の観点から望ましくない。野党は国会審議で厳しくたださねばならない。
日本は今、20年ぶりの水準になった円安が輸入コスト増を通じて物価を一層押し上げている。そして円安の根底にあるのが日銀の大規模金融緩和だ。政府が総合的な物価高対策を講ずるのであれば、その在り方の議論を避けてはなるまい。