子ども2人を含む乗客乗員計26人を乗せ、北海道・知床半島沖のオホーツク海を航行中の観光船が「船首が浸水している」と第1管区海上保安本部に救助を要請し、行方不明になった。23日のことだ。1管の航空機や巡視船、地元の漁船に陸海空自衛隊の航空機も加わって現場海域の捜索を続け、乗客らの発見と死亡確認が相次いでいる。

 運航会社は乗客乗員に救命胴衣を着用させていたとしている。しかし気象庁などによると、現場付近の海水温は2~4度程度で、最低気温も3度を下回っている。体がぬれてしまうと低体温症になり危険な状態に陥るとみられ、現地に駆け付けた乗客の家族らは不安と焦りを募らせている。

 また事故当日は朝から強風注意報や波浪注意報が出され、現場海域ではかなり白波が立ち、航行していた巡視船の船首が波をかぶるほど荒れていた。地元に観光船事業者がいくつかある中で、港を出たのは遭難した観光船だけだった。運航会社と乗員との間で、どのようなやりとりと状況判断があり、最終的に運航を決めたのか、詳細に検証しなくてはならない。

 家族連れで景色や食事を楽しむ観光船は各地で人気があるが、他船との衝突事故やエンジンの故障などトラブルは多い。今回のような事故は二度と起こしてはならず、乗客らの捜索とともに原因究明を急ぎ、点検と対策に生かす必要がある。

 北海道・知床は2005年に世界自然遺産に登録され、その年、知床半島の羅臼、斜里両町を訪れた観光客は約250万人を記録。近年も新型コロナウイルスの感染が拡大する前は、170万人前後が訪れた。海からしか近づけない半島の先端付近では豊かな自然やヒグマなどを観察できることから、観光船クルーズが人気を博している。

 事故に見舞われた観光船は23日午前10時ごろに斜里町の港を出た。午後1時15分ごろ、1管に救助を要請。午後2時ごろには運航会社に「30度ほど傾いている」と連絡し、それを最後に音信が途絶えた。一体、何が起きたのか。船首が波をかぶったとしても浸水するのは考えにくく、岩礁や浮遊物にぶつかるなどして船体に亀裂が入り、海水が流れ込んだ可能性があると専門家はみる。

 午後にかけ波が高くなるとの予報があり、地元漁協の所属漁船は昼前に帰港。「波が高いため、出港できなくなった」と参加者にツアー中止を連絡した事業者もあった。港に広がる警戒感をよそに観光船は出港した。

 この観光船は昨年5月、浮遊物にぶつかり乗客3人が軽いけがをする事故を起こし、翌月も、けが人はいなかったものの出港後間もなく浅瀬に乗り上げた。国土交通省は今回の事故を重く見て特別監査を実施した。

 斜里町の知床岬付近では05年に観光クルーザーが岩場にぶつかって座礁し、乗客約20人が重軽傷を負った。各地でも、07年に鹿児島湾の浅瀬で遊覧船が座礁し、子ども3人を含む乗客14人全員が救助されるまで約3時間を要した。15年には徳島市内の川で遊覧船と消防艇が衝突し、子どもら3人が軽いけがをした。

 斜里町には現地対策本部が置かれ、運輸安全委員会の船舶事故調査官も現地入りしている。捜索と原因究明の一方で、乗客の家族に、できる限りの情報提供と支援を行うよう心がけてほしい。