フランス大統領選の決選投票で中道、共和国前進(REM)の現職マクロン大統領が極右、国民連合(RN)のルペン候補を破り再選を果たした。新型コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻による不安が広がる中で、有権者は穏当な中道路線の継承を選んだと言える。

 一方、前回2017年の大統領選と同じ顔合わせの決選で、マクロン氏とルペン氏の得票率の差は、約32ポイントから約17ポイントへと縮まった。5年間のマクロン政治に対する批判の高まりを表しており、大統領はこれを胸に刻まなくてはならない。

 フランスのラジオ局が、前回大統領選でマクロン氏が掲げた公約の実現率をまとめている。主要政策100のうち実現したものが47、未達成が25。未達成には大気汚染対策で盛り込んだ燃料税の引き上げが含まれる。

 マクロン氏は18年に法案を提出したが、これに反対する「黄色いベスト運動」が拡大、撤回を余儀なくされた。日常生活を車に頼る、地方在住の庶民らの怒りに無頓着だったことが、運動を激化させたと言われる。

 こうした庶民の苦境への理解を深めることが、典型的なエリートであるマクロン氏の2期目の課題となろう。

 今回大統領選で最も特徴的だったのは、中道右派の共和党と中道左派の社会党という、長年フランス政治を支えてきた主要政党の没落だ。12年大統領選の第1回投票で、合わせて約56%を得票していた両党の候補は10年後の今回、合計で7%にも届かなかった。

 伝統的政党の退潮の背景には、極端な主張を掲げる政党への支持拡大がある。今回大統領選の第1回投票のトップは現職マクロン氏で得票率約28%だったが、極右ルペン候補は約23%、極左「不屈のフランス」のメランション候補も約22%を獲得、極右と極左が共に大きく支持を伸ばした。

 パリ政治学院のパスカル・ペリノー教授はこうした投票を政権への「抗議票」と呼ぶ。マクロン氏の1期目が、グローバル化や新自由主義を脅威と感じる中間・低所得層に「政権に見捨てられた」という怒りを抱かせたのが抗議票増大の理由という。1期目の間に貧困層は40万人も増えた。

 マクロン氏を再選に導いたのは、欧州統合を支持しグローバル化の中で居場所を見いだせる比較的豊かな人々の票だった。一方「見捨てられた」と感じる人々は、極右や極左の欧州連合(EU)懐疑論を支持し、自国第一主義に傾く。社会の分断が深まったのだ。

 今回は決選投票の投票率も、約72%と過去2番目に低かった。特に若年層の間で政治への期待感が低下している。

 フランス憲法は大統領の3選禁止を定めており、マクロン氏は27年の次回大統領選には出馬できない。伝統政党が衰退する中、親EUで国際協調路線、移民やイスラム教徒に対して穏健な政策を掲げるのはREMしかないが、マクロン氏抜きで勝てるだろうか。

 5年前、マクロン氏は「右でも左でもない」を唱え、斬新な「中道のアウトサイダー」として支持を集めた。だが、ここからはフランス政治の真ん中で、中間・低所得層の不満に耳を傾け、政治への期待回復に力を注がなければならない。これを怠ると5年後には、フランスに極右か極左の大統領が誕生することになろう。