北海道・知床半島の沖合で乗客乗員26人を乗せた観光船が遭難した事故を巡り運航会社「知床遊覧船」の社長が事故発生から5日目の27日になって、ようやく記者会見した。これまで社長は地元の斜里町や国土交通省による非公開の説明会に何度か同席し、乗客家族らからの質問に応じたが、公の場で事故について語ることはなかった。

 2時間半ほどに及んだ会見で、社長は天候の悪化が見込まれる中での出航について「間違っていた」と述べた。さらに観光船との無線連絡に使う会社のアンテナが破損したり、緊急時の連絡手段である衛星電話が故障したりしていたにもかかわらず、何ら対策を講じなかったことも認めた。

 運航の安全をないがしろにした実態があらわになった。知床遊覧船は6年前、現社長に経営権が移ってから経験豊富な船長や従業員を次々に解雇。ベテランを切り、賃金の安い新人を入れることでコスト削減を図ったとされる。ただ人手も人材も不足することになり、利益優先が安全管理に影を落としたという見方が広がっている。

 第1管区海上保安本部は業務上過失致死や業務上過失往来危険の疑いでの立件を視野に調べを進めている。その一方で、経営状況も含めて事業者による安全管理について、行政がより詳しくチェックする仕組みづくりを検討する必要がある。

 観光船が消息を絶った23日、斜里町では未明に強風注意報が、朝から波浪注意報が出された。地元漁師らが天候急変を予想して出航を取りやめる中、知床遊覧船の観光船は午前10時に出発。複数の同業他社はまだツアーを始めていなかった。

 出航に至った経緯を聞かれ、社長は当日午前8時ごろ船長と打ち合わせをし「午後の天気が荒れる可能性があるが、午前10時の出航は可能」と報告を受けたとし、海が荒れれば船長判断で引き返すという条件付きで出航を決めたと説明した。

 しかし国交省によると、運航会社が国に提出する安全管理規程には、波の高さや風速など出港可能な気象条件を列挙した運航基準があり、出港時に基準内であっても、途中で基準を超える恐れがある場合は出港できない。担当者は規程上、条件付きの運航といった考え方はないとしている。

 斜里町では、春先の海は午前中に穏やかでも、午後に荒れる可能性があることはよく知られており、社長の判断に疑問が投げかけられている。また破損した会社の無線アンテナについて、社長は「事故当日の朝に知ったが、携帯電話や他の運航会社の無線で通信でき、問題ないと判断した」と述べた。しかし航路上には携帯がつながりにくいところもある。事前に他社に協力を求めてもいなかった。

 衛星電話も故障していた。観光船は緊急時に会社に連絡する重要な手段を欠いたまま、海に出て遭難。「船首が浸水している」との無線は他社に入り、この会社から海保に救助要請があった。

 社長は乗客家族に対しても、ほぼ同じ説明をしているようだが、家族にとっては到底納得できるものではないだろう。荒天が予想されても、ツアーを実施することが常態化していたとされ、客の安全よりも収益を優先した末の「人災」ともいえる。事故の経緯と背景について、踏み込んで解明を尽くすことが求められる。