面作りに励む兄の竹原倫希さん(左)と弟の和希さん=浜田市浅井町、神楽処神伝
面作りに励む兄の竹原倫希さん(左)と弟の和希さん=浜田市浅井町、神楽処神伝

 浜田養護学校(浜田市国分町)の高等部を今春、卒業した双子の兄弟が8日、神楽面の工房を立ち上げる。石見神楽に魅了され、舞い手として舞台に立ちながら、小学5年生から面作りを始めた。お互いの強みを生かし、仕事の傍ら制作に励む。

 兄弟は市内の旅館で働く兄・竹原倫希(もとき)さん(18)と清掃会社で働く弟・和希(ともき)さん(18)。浜田市浅井町の自宅に併設した工房は「神楽処神伝(じんでん)」と名前を付けた。

 両親が石見神楽に携わる影響で幼い頃から神楽は身近だった。神楽面に興味を持ったきっかけは5歳のころ、市内の面工房を訪れた時。壁一面にずらりと面が並んだダイナミックな光景や塗料の匂いが記憶に残ったという。

 面への興味は募ったが高価で買えず、小学5年生で自分たちで作ろうと思い立った。市内の職人に一連の作業を学び、材料は譲ってもらったものや和紙を半紙で代用するなど工夫した。

 松原小(同市浅井町)を卒業後、養護学校に入学。授業で職人の工房を訪れた時、熱意が伝わり、面の肌を作る顔料、胡粉(ごふん)の分量を特別に教えてもらった。

 中学部の時、神楽部を立ち上げ、手作りの面で全国の高校生が成果を発表する「高校生の神楽甲子園」に出場した。養護学校への進学が面作りを後押しした。これまでに作った面は約500点にもなる。

 工房で修行した経験はなく、職人との交流の中で知識や技術を吸収した。制作はそれぞれが意見を出し合い、互いに足りない部分を補い合う。兄は弟の「彩色の斬新な発想がすごい」と言い、弟は「和紙張りなど細かい作業が丁寧」と兄を褒める。

 兄弟は後野神楽社中に籍を置き、舞い手を担う。厳しい世界で心が折れそうになることもあるが、演目が終わった時の達成感が神楽を続ける力になっている。面を作り続けるのは「神楽が好き」という思いともう一つ、大きな理由がある。

 注意欠陥多動性障害(ADHD)がある2人は病名だけを見て、できないと判断され進路の選択肢が限られる経験をした。一人前の職人になることで「見返したいと思った」と話した。

 6年間を共に過ごした養護学校の仲間は、絵や運動などさまざまな長所を持っている。「自分たちの活動を通じ、個性を表現することが得意な仲間のことを知ってほしい」と和希さん。倫希さんは「自分の強みに自信を持って発信できる人が増えてほしい」と願う。