『華表美談 宍道湖嫁島物語』
『華表美談 宍道湖嫁島物語』

 著者には、松江の近代化の基礎を支えたお雇い外国人技術者たちを紹介した著書がある。これに続き、1890(明治23)年に完成した琵琶湖疏水の設計・監督者として有名な工学博士田辺朔郎が1906(同39)年に初めて来松し、嫁ケ島に石造華表(鳥居)を献納した物語をまとめ、解題した成果が本書である。

 前半では27(昭和2)年、島を望む乃木地区民の手による『華表美談 宍道湖嫁島』(手書きガリ版刷り)の原本に、ルビを付し脚注を加えて完全復刻している。田辺のことは、京都では近代化に貢献した偉人として学校で学ぶが、松江の人はほとんど知らないという。そのため著者は田辺の献納の美談と嫁ケ島の文化的価値を後世に伝えようと奮闘した。

 地元のみならず、関係史料を求めて県外に出かけ調査を進めた。京都の琵琶湖疏水記念館では、田辺と教え子の島根県職員大野亀之丞の書簡を発見。原本の刊行直前のやりとりや「松江水郷祭」開催の経緯などが新たに判明した。

 田辺や大野の肖像、新築の華表を含む巻頭写真12枚は、原本では台紙のみで、肝心の写真そのものは貼付(てんぷ)されていなかった。近年地元の古書店で写真が見つかり、研究者が保管することとなった。しかし12枚のうち2枚は同梱(どうこん)されていなかった。失われた写真は、著者の懸命な捜索により琵琶湖疏水記念館所蔵の田辺ファイルから発見されついに補充された。原本の復活に関心を寄せた人たちのおかげで、掲載できたのである。

 後半では、地元の漢詩人の結社で、嫁ケ島に石碑を建立した「剪淞吟社(せんしょうぎんしゃ)」の作品と解説、および田辺の業績や教え子たちの活躍をまとめた。

 本書は、嫁ケ島や鳥居のほか、当時の文化人など広範多岐にわたり紹介している。松江の近代文化史の学習を深めたい方々にも、最適なガイドブックであり、意義ある出版と評価できる。

 (岡崎雄二郎・嫁ケ島ガイド)
 (山陰中央新報社・2200円)