上場企業の3月期決算は、多くの会社が高水準の利益を確保した。コロナ禍から回復する道筋がようやく見え、輸出企業には米国の景気拡大や円安も追い風になった。長く停滞してきた賃金を底上げし、家計を潤す好機だ。大企業には、原材料の値上がりに苦しむ下請け企業に価格転嫁を認め、利益が行き渡るようにする姿勢を求めたい。

 これまでは、好業績の後は株式配当の増額や自社株買いなどによって、株主に利益を還元する企業が多かった。しかし新型コロナウイルスに苦しめられ、ロシアのウクライナ侵攻などで先行きを見通すのも難しい中で、株主に偏重した利益配分が妥当だとは思えない。

 物価上昇や景気変動に耐えるには、賃上げと中小企業の体質強化が欠かせない。21世紀に入ってから国内の賃金水準はほぼ横ばいが続いてきた。春闘の平均賃上げ率は、定期昇給相当分を含め2%を上回ったが、最近の物価上昇などを見れば十分とは言えない。

 原油、天然ガス、小麦などの値上がりが、食品価格や電気料金などに本格的に反映されるのはこれからだ。賃金が伸びなければ家計の実質的な所得が目減りし、消費復調や格差是正は一段と遠のく。賃金改善は最も優先すべき課題だろう。

 部品や素材の生産を支える中小企業は、原材料の値上がりに苦しんでいる。2兆9千億円近い純利益を上げたトヨタ自動車などの大手メーカーは、直接取引がない下請け企業も含め、幅広い中小企業が納入価格を値上げできるように指導力を発揮し、円安やコスト削減で生まれた果実を供給網に広く浸透させるべきだ。

 親会社の都合で納期を一方的に早めたり、発注量を変更したりするのは中小企業の負担を重くする。そのコストを下請けに押し付けるのは論外だ。公正取引委員会や経済産業省も、中小企業が不利益を被らないよう積極的に行動する必要がある。

 大手商社や資源関連企業は、エネルギー価格の高騰によって大きな利益を上げた。米国や欧州の経済回復に加え、ロシア制裁の影響も大きい。

 資源ビジネスは浮き沈みが激しく、業績によって経営者の報酬を大きく変動させる会社が多い。戦争が資源価格を上昇させる一因になっていることを考えれば、経営トップらの高額報酬は社会的な理解を得られるだろうか。社外取締役を交えた報酬委員会などで慎重に判断してほしい。

 新型コロナによる都市封鎖が続く中国の経済動向は不透明だ。米国では高インフレと金利引き上げが続き、企業業績の先行きは予断を許さない。赤字決算に陥ったソフトバンクグループの孫正義氏は、巨額投資を続けてきた強気の姿勢を一変させ、「守りに徹する」と宣言した。

 だが、長期にわたって利益をため込み、投資に回さなかった会社も少なくない。社員の技術を高め新たな能力を引き出す人材投資や、IT事業、エネルギー転換に思い切った資金投入が必要な局面でもある。

 大企業が利益を幅広く配分することは、小売り、観光、サービスなど幅広い産業を再生させる起爆剤になる。デジタル化や脱炭素は多くの産業に共通する課題であり、処方箋の輪郭も見えている。危機の中にあっても成長のシナリオを描き、着実に実行する力を経営者に求めたい。