米国が提唱した経済圏構想「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)が発足した。日本、オーストラリア、インドなど13カ国が参加し、世界の国内総生産(GDP)の4割に相当する規模だ。経済安全保障を軸に、この地域で存在感を強める中国に対抗するが、参加国が成果を享受できなければ求心力は失われる。実効性を高めるため、日本が主導権を発揮したい。

 経済連携協定は通常、関税の撤廃や引き下げ、輸入規制の緩和などによって貿易を拡大することを目的にしている。しかしIPEFは大きく異なり、関税交渉は対象から外した。市場開放の加速や、直接的な輸出拡大は期待できない。

 異例の仕組みになったのは、米国の事情を色濃く反映したためだ。米国は環太平洋連携協定(TPP)離脱によってインド太平洋地域の経済圏への関与が後退した。これを回復するためにIPEFを打ち出したが、市場開放によって米国内の雇用に不安が生じれば、バイデン大統領の支持率は低下しかねない。今秋の中間選挙を控え、関税引き下げを伴う交渉は選択できなかった。

 こうした制約の中で考え出されたのが、戦略物資のサプライチェーン(供給網)強化などに同盟国や友好国と取り組む新たな形の経済連携だ。デジタル流通に関する高水準のルールづくり、脱炭素を促すクリーンエネルギーの開発、税制・反汚職も掲げ、計4分野で協調を呼びかけた。いずれもロシアによるウクライナ侵攻や温暖化問題の深刻化など国際情勢の急変の中で、喫緊の課題になっているテーマだ。

 輸出拡大という直接的な恩恵がないとしてアジア各国の間では不満もあったという。しかしこうした分野での国際協調が安定して機能するなら、将来に向け成長の土台をつかむことにつながる。

 しかも4分野全てでの協力を義務付けず一部参加も認めた。国ごとにそれぞれ事情があり、米国や中国との距離感も異なっており柔軟な制度にしたのは間違っていない。取り組みやすい分野から加入し、状況に応じて分野を広げる手法は参加国をつなぎ留めるのに役立つだろう。

 アジア各国の立場を尊重しながらネットワークを強化するため日本も汗をかきたい。日本には米国が離脱した後にTPP交渉をまとめ上げた実績がある。各国の利害を丁寧に調整し、十分機能する枠組みに育てたい。

 ただ、インド太平洋地域には既にTPPがあり、中国がけん引した地域的な包括的経済連携(RCEP)もある。世界貿易機関(WTO)を中心とするグローバルな自由貿易体制は関係国があまりにも増え、多国間交渉が難しくなった。その結果、地域ごとの経済連携協定が林立した。

 大国の主導権争いや安全保障を巡る思惑が背景にあるにせよ、既存の地域協定が適切に機能しているかどうか点検することも必要ではないか。

 日米には2国間の貿易協定があることも忘れてはならない。2020年に発効し、当時の安倍晋三首相は「ウィンウィン(相互利益)だ」と強調した。

 しかしこの時に解決できず、交渉を続けるはずだった日本車の関税撤廃の動きはいっこうに進展していない。新たな経済連携を推進するのもいいが、その前にやるべきことも残されている。