全国の有権者レベルで、岸田文雄首相の実績が初めて評価される国政選挙となる参院選が公示され、7月10日の投開票日に向けて舌戦がスタートした。

 戦後間もない1947年に始まった参院選も今回で26回目。ただ、人口の少なさ故に「鳥取・島根」という枠組みに押し込まれた山陰両県民にとっては、望んでいなかった3度目の「合区選挙」を迎えてしまった。

 参院の「1票の格差」を巡って、鳥取と島根、徳島と高知で都道府県の枠を超えて選挙区を統合する「合区」を導入する改正公選法が成立したのが2015年7月だった。

 初の適用となる16年7月の参院選前、地方紙の政治担当者が全国から集まる会合に出席すると、「選挙エリアが広がって大変ですね。どう対応するんですか」と多くの人から声をかけられた。だが、続く19年の参院選前に「どう対応したんですか」と尋ねてきたのは、ほんのわずか。3度目となる今年、特殊さが話題に上ることはなかった。合区が常態化し、マスコミ関係者の間で当たり前のように受け止められているのを実感する。

 合区の「実害」を受けているのが有権者だ。鳥取・島根合区選挙区は東西約320キロと細長く、面積約1万200平方キロに及ぶ。その8割超を占める中山間地域や離島の町村は候補者との距離がさらに遠くなった。深刻な人口減少に直面し、地域再生を促そうにも担い手確保が容易でない地域住民の切実な声は国政により届きづらくなった。

 政治への期待もしぼんでいるようだ。前回19年参院選の県別投票率は鳥取が49・98%、島根は54・04%で過去最低を更新。同じ合区の高知は46・34%、徳島に至っては全国最低の38・59%と低調に終わった。合区導入による「政治離れ」は深刻だ。

 こうした状況を踏まえて中国地方知事会は同年10月、「合区した二つの県の間で利害が対立するような問題が生じた場合、国政に両県民の意思を反映させていくことが難しくなる」「有権者にとって候補者を知る機会が少なくなり投票環境が悪化する」と指摘。憲法改正などの抜本的な対応によって合区を解消するよう政府に求めた。

 だが、解消の道筋は見えてこない。今月8日、参院の「1票の格差」是正を議論する与野党の参院改革協議会が、昨年5月からの議論の結果をまとめた答申を山東昭子参院議長に提出した。合区について、解消すべきだとの意見が多いという記述を盛り込んだものの、各党の主張を述べただけで抜本的是正につながる具体案は示せずじまい。次回25年参院選での制度改革を目指して議論を進めるという。

 とはいえ、そもそも参院の選挙制度改革は、15年成立の改正公選法の付則で、19年選挙までに抜本的な見直しを行い、必ず結論を得ると規定していた。自民党は18年の公選法改正で設置された比例代表「特定枠」の制度を使い、実質的な「都道府県代表」を確保しているものの、弥縫(びぼう)策に過ぎず、抜本的な対応には程遠い。これでは有権者の信頼は得られまい。

 鳥取・島根合区選挙区でも、参院選公示を受けて候補者による舌戦が始まった。最大の争点として物価高が直撃する暮らしへの支援策に注目が集まるが、人口減少で疲弊する山陰両県の将来像とともに、合区解消の具体的な道筋も示してほしい。そうでなければ、政治離れがますます加速してしまう。