北欧のフィンランドとスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)に加盟することが事実上決まった。ロシアのウクライナ侵攻で深刻な脅威を感じた両国が伝統的な中立政策を放棄して米欧の軍事同盟に加盟する。

 冷戦時代から緩衝国家として、橋渡しの役割を担ってきた国が消えることで欧州の安全保障秩序が激変することになる。世界が権威主義陣営と自由民主主義陣営に明確に分断されつつあることを象徴する事態だ。

 またNATOはスペインでの首脳会議で、ロシアだけでなく中国をも念頭にした、12年ぶりの新たな「戦略概念」を策定する方針だ。

 これらの動きは、ロシアのウクライナ侵攻が原因であり、北欧2カ国の加盟もロシアの暴挙を目の当たりにすれば、合理的な決断ではある。NATO条約は加盟国への攻撃を全加盟国への攻撃とみなすため、対ロシア防衛力を期待できるからだ。

 ただウクライナでの戦争に加えて軍事的な緊張が北欧に広まることは誰の利益にもならない。ロシアは5月末には北欧に近いバレンツ海で極超音速巡航ミサイルの実験を行いけん制している。NATOはこれ以上の緊張激化を防ぐために慎重に行動すべきだ。

 フィンランド、スウェーデンともに高度な軍事力を保持している。バイデン米大統領は「NATOの集団防衛を強化する」と歓迎している。ロシアはウクライナのNATO加盟を認めないことを理由の一つに侵攻に踏み切ったが、逆効果になったと言える。

 2カ国の加盟にはNATO加盟国のトルコが当初反対した。トルコの非合法組織クルド労働者党(PKK)を支援しているとの理由だったが、テロ容疑者引き渡しなどの要求を2カ国側が受け入れたと判断して賛成に転じた。当初1年程度かかるとされた加盟手続きだが、ロシアの侵攻という激震を受けて迅速に進むことになった。

 一方で侵攻が4カ月を超え長期化するにつれてロシアに対する包囲網に揺らぎも見えだした。

 28日までドイツで開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)は、ロシアへの制裁と圧力の強化を決めた。侵攻の影響で深刻化している食料危機への対応として45億ドルの拠出も決めた。

 だが制裁強化派の米英カナダと慎重派の独仏伊の間で温度差が見え隠れした。世界では「制裁疲れ」「支援疲れ」が表面化しており、天然ガス禁輸などさらなる実効的な制裁強化は容易でない。

 ロシアはG7サミット中も攻撃の手を緩めず、戦争の出口が見えていない。自由や民主主義のとりでであるG7は「国際規範違反は容認しない」という原則の下に結束して対応したい。

 ウクライナは小麦などの穀物輸出大国だが、戦争のために輸出できない状況になっている。気候変動で食料不足に陥っていたところへ穀倉地帯での戦争が加わり、グテレス国連事務総長はアジア、アフリカ、中東などで「前例のない飢餓と貧困の恐れがある」と警告している。

 岸田文雄首相は来年5月に広島でG7サミットを開催する、と発表した。自由民主主義陣営の有力な一員として、軍事的な緊張の拡大を抑止し、弱者が戦争の余波を被ることを防ぐためのリーダーシップを発揮してほしい。