岸田文雄首相は北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が開かれたスペインで、米国のバイデン、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)両大統領と会談した。

 日米韓3カ国の首脳会談は2017年9月以来約5年ぶりで、北朝鮮による弾道ミサイルへの対抗と核開発を阻止するため安全保障面での連携・協力を強化することで一致した。中国を念頭に「自由や民主主義という基本的価値」を共有する3カ国の結束も確認した。

 北東アジア地域の安全保障政策上、3カ国の連携は欠かせない。首脳会談での確認事項は当然の内容と言える。ただ、約5年間も会談が開かれなかったのは、日韓関係が不正常な状態にあるのが原因だ。今回のスペインでも日韓首脳の正式な会談は実現せず、3~4分程度の極めて短時間の対話しか行われなかった。

 日韓間には、日本が朝鮮半島を植民地化していた時代の元徴用工や元従軍慰安婦などの懸案がある。だが、今年5月に就任した尹大統領は対日関係改善に前向きな姿勢を示している。関係改善の好機と捉えるべきだ。

 日米韓の枠組みを有効に機能させるためにも、11年12月以降途絶えている日韓首脳の相互訪問を再開するなど、未来志向で懸案を乗り越える知恵を絞る必要がある。

 北朝鮮は弾道ミサイルの発射を活発化させており、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や変則軌道のミサイルなど能力を向上させているとみられる。近く核実験を行うとの観測もある。

 ミサイルの探知や追跡には日米韓の情報共有と連携対応が不可欠だ。3カ国首脳会談では、17年12月以来中断している3カ国の共同訓練を再開するため調整を進めることも確認した。

 ただ、今回の3カ国会談が開かれたのは日韓関係の改善を求める米政権の意向を受けたものだ。日韓首脳の対面での会談は19年12月が最後で、今回も見送られた。

 日韓関係は文在寅(ムンジェイン)前政権時代に厳しい状況に陥った。18年には植民地時代に強制労働させられた元徴用工を巡る訴訟で、日本企業への賠償命令が韓国最高裁で確定。元慰安婦問題では15年に、日本が韓国の財団に10億円を拠出し、元慰安婦支援を行うことで問題の「最終的かつ不可逆的」解決を確認したが、文政権時代に財団は解散された。

 だが、尹大統領は就任直後から「関係改善に向けて共に努力していくことができればと考えている」と発言。朴振(パクチン)外相は、元徴用工問題の解決に向け、政府関係者や専門家らが協議する官民合同の新組織を立ち上げる考えを示している。

 もっとも、韓国側の対応も課題解決につながるかは不明確だ。島根県・竹島を巡る対立も続く。

 今回の短時間の対話でも、両国の発表で内容が食い違った。韓国側は岸田首相が「健全な関係に発展するよう努力しようと述べた」と説明したが、日本側は首相が「日韓関係を健全な関係に戻すために尽力いただきたい」と韓国側に対応を求めたと発表した。双方が国内世論に配慮したとみられる。特に日本側は参院選のさなかだ。

 しかし、何よりも重要なのは隣国との健全な関係構築という大局に立つことだ。岸田首相は3カ国会談後、「日韓関係を健全な関係に戻すべく、緊密に意思疎通を図りたい」と述べた。双方にその努力を求めたい。