▼有権者の意外な反応
4月11日、市議選が告示され、県内では異例となる中村さんの選挙活動が始まった。「市民とつながる行政」を掲げ、女性の活躍や若い世代の子育て支援、子どもたちのための公園整備について議会で積極的に扱う考えを訴えて回った。
選挙カーは使わず、集会も行わない。後援会事務所も使用しない。情報発信はSNSで子育て世代を中心に行い、街頭演説はほぼ地元の大通りを歩いて往復しながら呼び掛けるのみ。チラシは自らが文書作成ソフトで打ち込んだものを会社のコピー機で増刷ー。可能な限り資金が掛からない手法を選び、結果として、従来型の選挙活動とは正反対のものばかりになった。
しかし、意外にもこの真逆の手法は世間から注目を集める。同じ子育て世代の人からは「住宅街を走る選挙カーがうるさくて嫌だった」「子どもを寝かしつけてる時に選挙カーが通るので選挙のたびに大変。選挙カーを使わない中村さんを支持します」との声がSNSなどで続々と寄せられたのだ。
SNSの友達申請も日に日に増えたほか、動画投稿サイト「YouTube」に投稿していた自己紹介動画も、選挙前の再生回数500回から1週間で1400回になるなど、顔の見えない支持者の輪が広がっていった。
▼目を疑う開票速報
その一方で、現実世界では全く手応えがなかった。街頭演説をしても、立ち止まってくれるのは多くて2人。選挙カーが無いため、日が暮れて人通りが無くなると何もできない。時には心が折れ、「こんなやり方で当選するはずがない」と午後4時に活動を辞めて帰宅した日もある。
投開票前日の17日には、友人たちから「よく頑張った」「選挙は結果じゃないよ」と、落選前提のメッセージが多く届いたという。そして、18日の午後9時、いよいよ開票。中村さん本人もリラックスした気持ちで、「テレビの開票速報は友人の家でジャージ姿で見ていた」と笑った。
ところが、開票速報第1報の自身の得票数には「800票」の文字。「選挙中は全く実感が無かったのに一体誰が、という思い。目を疑った」と振り返る。
速報2報では複数の現職を抑えて2800票で当選確実となり、自身のスマートフォンには次々と祝福のメッセージが寄せられた。「私に思いを託してくれる人がこんなにいる」。感涙にむせび、動けなかった。票数は最終的に2879票に上った。
その後、用意はしたものの全く使っていなかった自身の後援会事務所に慌てて移動。後援会組織が作れなかったため、事務所開きも出陣式も行わず閉めっぱなしになっていた事務所を選挙後に初めて開け、開票速報を見て駆けつけたパジャマ姿の友人たちと声が枯れるまで万歳を繰り返した。