東京五輪・パラリンピック組織委員会の元理事の会社が、大会スポンサー企業から約4500万円を受領していた問題で、東京地検が関係先の家宅捜索をするなど強制捜査を始めた。容疑は受託収賄とされる。不正な資金提供による招致疑惑のほか、数々の不祥事に揺れた東京大会に司法のメスが入る。金がらみの「商業五輪」の闇の一端が解明できるか。

 組織委の高橋治之元理事が、大会スポンサーの選定を巡って何らかの影響力を行使したのか。紳士服大手のAOKIホールディングスは2017年から元理事の会社への資金提供を開始。翌18年に組織委とオフィシャルサポーター契約を結び大会エンブレム付きのスーツなどを販売した。五輪スポンサーは企業イメージ向上にも寄与する。

 組織委の理事は、東京五輪・パラリンピック特別措置法の規定に基づき「みなし公務員」に該当する。職務に関して賄賂を収受した場合には、収賄罪が成立する。捜査では、高橋元理事の職務権限やAOKI側が提供した資金の趣旨などが焦点になる。「五輪汚職」が摘発されれば、多くの成功体験を誇る日本の五輪史の汚点となろう。

 今回の東京五輪はスポンサー集めが突出していた。マーケティング専任代理店となった広告大手の電通の力もあって、協賛金1500億円の目標はあっという間にクリア。組織委の公式報告書によると、最終的に協賛企業68社から五輪史上最高額の約3750億円を集めたという。

 スポンサー資金は大会運営費の貴重な財源である。収入が多ければ、国や東京都から支出される公金を節約できるメリットがある。専任代理店となった電通にも多額の手数料収入が入る。ただスポンサー集めの過程で無理はなかったのか。 

 関係者によると、今回の協賛企業獲得には「なりふり構わず」の姿勢が垣間見えたともいう。五輪スポンサーは「1業種1社」が慣例だったが、東京大会の組織委はこれを打破。複数の業種で複数の企業と契約した。

 高橋元理事は電通の元専務で、商業五輪の先駆けとなった1984年ロサンゼルス大会から五輪に関わっていたという。五輪ビジネスのノウハウを熟知した人物である。豊富な経験、知識が不適切に使用されたなら、極めて残念である。

 東京五輪では招致時の疑惑も解明されていない。招致委員会が海外のコンサルティング会社に送金した2億円超の資金が、開催都市選定投票の票集めに使われたのでは、と疑われた。フランスの司法当局が捜査していたが進展はない。招致委からは高橋元理事の会社にも約9億円が振り込まれていたというが、使途は不明だ。五輪の深い闇に、汚職疑惑という新たな暗部が加わった。

 開幕前にはエンブレムの盗用問題や組織委前会長の女性蔑視発言による辞任など不祥事も相次いだ。組織委は公式報告書には一連のトラブルの経緯については詳述せず、曖昧な総括のままで6月に解散してしまった。

 コロナ禍の中の強行開催もあって、東京大会では五輪に対する「負のイメージ」が多くの国民に刻まれた。新たな疑惑が五輪運動全体に悪影響を及ぼすことを危惧する。札幌市が立候補している2030年冬季五輪招致にも「黄信号」が点灯するかもしれない。