台湾を自国の一部と主張する中国は、ペロシ米下院議長の訪台について「内政干渉」と猛反発し、台湾周辺で大規模な軍事演習を行った。日本が先進7カ国(G7)外相の共同声明で演習を非難したことに反発し、カンボジアで予定していた日中外相会談を拒否した。

 ロシアによる2月のウクライナ侵攻により、アジアでは台湾有事への警戒が高まった。中国は米欧と連携する日本にいらだちを強め、外相会談中止は日中対立の激化を浮き彫りにした。9月には日中国交正常化50周年を迎えるが、祝賀ムードは見えない。

 米中の確執の中で、日中両国は重要な歴史の岐路に立つ。中国は軍事力増強で覇権を追わずに平和的な発展を目指すべきだ。日本は中国封じ込めに動く米国と一線を画した独自の外交の道を探りたい。日中は力の対決を回避し、地域の平和と共生に向けて戦略的な対話を進める必要がある。

 中国の軍事演習は台湾に加え、台湾を支持する米国や日本を威嚇する狙い。台湾本島攻撃を想定し、弾道ミサイル11発を発射したとされる。日本政府によると、5発は日本の排他的経済水域(EEZ)に落下し、うち4発は台湾本島上空を越えたとみられる。

 岸田文雄首相は来日したペロシ氏との会談で、EEZへのミサイル落下について「日本の安全保障と国民の安全に関わる重大な問題」と強調した。中国は日中間のEEZ境界が未画定として日本の抗議をはねつけたが、不測の事態を招きかねない過激な行動は厳に慎むべきだ。軍事的な挑発は国際社会の中国脅威論に拍車をかけ、中国の利益を損なうだろう。

 2012年9月、領有権を巡って日中が対立する尖閣諸島(沖縄県)の国有化に中国が反発し、両国関係は著しく悪化した。安倍晋三元首相は中国の習近平国家主席との間で関係改善を進め、20年春の習氏国賓来日に合意したが、新型コロナウイルスの感染拡大で訪問は実現しなかった。

 その後、米中対立が続く中で、中国の強引な海洋進出や香港、新疆ウイグル自治区での人権弾圧などへの反発から日本国内の対中世論は悪化した。ウクライナ侵攻後は対ロ協調を続ける中国を見る目もより厳しい。

 6月末、岸田氏はスペインでの北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に日本の首相として初めて出席し、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分だと強調。自民党が大勝した参院選では台湾有事もアピールした。中国メディアは「日本はNATOをアジアに引き入れる下心を持つ」と非難。中国外務省はG7外相声明について「日本は中国の主権を侵害する米国の行為の手先になった」と批判した。

 岸田氏にとって、今後の重要な外交課題は自ら目標に掲げる中国との「建設的な関係」の構築だ。昨年10月の就任直後、習氏と電話会談を行ったが、その後、会談は途絶えた。外相会談では国交正常化50年に当たり、首脳会談を含む関係改善の道筋を協議する予定だったとみられる。

 台湾や尖閣、人権や経済安全保障など日中間に問題は山積する。隣り合う両国は国交正常化の共同声明で「恒久的な平和友好関係」を誓い合った。原点に戻り、いかにして関係を修復して発展させるか、日中首脳の責任は極めて重い。