山本太郎氏
山本太郎氏
山本太郎氏

 山陰中央新報社の石西政経懇話会、石見政経懇話会の定例会が26、27の両日、益田、浜田両市内であった。長崎大熱帯医学研究所教授の山本太郎氏(57)が「with(ウィズ)コロナ社会の見取り図~ウイルスとの共生の視点から」と題し、新型コロナウイルス収束後を展望した。要旨は次の通り。

 新型コロナウイルスの遺伝子構造は1本鎖RNAで、変異は2本鎖やDNAに比べて速く、ワクチンがずっと有効であり続けるわけではない。コロナは根絶できないというのが研究者の共通認識だ。つまり、どう向き合うかが問題になる。

 課題の一つは医療崩壊を起こさないこと。医療現場に命の選別をもたらし、弱者を守っていかねばならないという基本的倫理観が失われる恐れがあるためだ。

 過去50年のわずかな間に野生生物から人にSARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)、新型コロナウイルスが感染した。人間の無秩序な自然への進出により、人と野生動物との距離が近くなりすぎたのが一因ではないか。コロナは人と自然との関係を見つめ直す機会ともなる。

 パンデミック(感染症の世界的大流行)は時に社会変革の先駆けとなる。中世ヨーロッパはペストにより労働力が急激に減りデフレが起こり、賃金の上昇と農民の流動化を促し荘園制の崩壊をもたらした。近代化の流れをペストが加速させた。

 ウィズコロナの時代は何をもたらすか。ITを中心とした社会が急速に到来した。2年前はインフラや認知がなく進んでいなかったオンライン会議は当たり前のこととなった。ただ、ITは手段であり目的ではない。目的をつくるのがわれわれに課せられた使命だ。

      (中山竜一)