子どもたちにアート体験を提供する活動を、島根県立大人間文化学部准教授の福井一尊さん(46)=美術教育学=が続けている。生活の利便性が向上する一方で、鈍る人間の「五感」をフル稼働させて豊かな感性を育てようと、独創的なワークショップ(WS)を各地で開いている。(増田枝里子)
「虫、といえば、みんなは何を思い浮かべる?」。8月上旬、松江城山公園内の興雲閣(松江市殿町)。小泉八雲記念館の企画展に合わせた福井さんのWSで、小学生18人がオリジナルの「虫」を作った。石こうを自分の手の形に固め、色を付ける。鳴き声や止まっている場所を想像し、作って終わりではない「一歩先」までを体験した。
WSは20年ほど前、岡山県内で始めた。美術関係の大学院を修了後、美術に関心が向かない人が多いことが気になったためだ。都内の美術館を訪ねた際、塾帰りの中高生が列をなしているのに驚き、文化的な格差を実感。「本物の文化に触れる機会が少ない地方で、子どもたちのアート体験の機会を保証したい」と意を強めた。
15年前に島根県立大に着任してからも中国地方の各地で開いてきた、アートの楽しさを伝える「種まき」は、これまでに60回を超えた。
5月に松江市総合文化センター・プラバホール(松江市西津田6丁目)で開いたWSは、全国に誇る大きなパイプオルガンがあるステージ上が舞台だった。
子どもたちは寝転んで音が降り注いでくる感覚を、ちぎり絵で表現した。福井さんは「小学生が抽象的な表現を冗舌に語る姿に感心した。本物の体験を経て、誰もが表現したくて仕方がない様子だった」と振り返る。
「大人にはできない、全感覚を使った経験で得られる『自己形成』こそが大切だから」と、子ども時代に芸術に触れる意義を語る。アートの語源は「生きるすべ」。子どもたちが楽しみながら、そのすべを獲得することを目指している。
WSの問い合わせは、福井さん、メールk-fukui@u-shimane.ac.jp