山陰両県で生活する上で最も重要な交通手段となる自動車。世界的な半導体不足に加え、新型コロナウイルスの感染拡大による生産工場の閉鎖、稼働縮小を背景に、全国で注文から店舗に届くまでの納期が遅れている。松江市役所担当として働く2人の記者「片山」は、新車への乗り換えを検討中。注文したらすぐに新車に乗りたいが、新車が届くには1年以上かかることもあると聞いて驚いた。そこで島根県内のディーラー4社を巡って、人気車種の納期の見通しを調べた。
(政経部・片山大輔、片山皓平)
記者2人の車はそろそろ買い替え時。家族持ちの大輔(34)は6年前に購入したトヨタのヴォクシー(走行距離約7万3千キロ)を、独身の皓平(29)は祖母から譲り受けた2008年購入のトヨタのヴィッツ(走行距離約10万4千キロ)が愛車だ。
ヴォクシーは来年7月に車検を迎える。納期の遅れや下取り価格が少しでも高くなる状況を考慮して買い替えを考え始めた。ヴィッツは新車登録から14年になり、夜の松江市郊外、鹿島町取材の前に故障。路線バスでなんとか取材先にたどり着くことはできたが、帰りはバスの便がない。暗い夜道を1時間以上掛けて歩いて帰宅し「もう潮時かもしれない」と感じている。
各社や各店舗、車種などによって車の入荷や在庫などの状況が異なるため、納期の時期にはばらつきがあると前置きした上で、まず向かったのは島根トヨタ自動車(松江市西津田1丁目)。納期はコロナ前が平均で2、3カ月程度だったが、今では4カ月~1年以上が普通という。「えー、1年かかるの」。正直驚いた。
車は、数万点の部品を使って完成させる。納期の遅れは半導体不足に加え、数百社にも及ぶ部品の製造企業で、新型コロナの感染拡大による工場の稼働停止、縮小が出ているのが理由だそうだ。
店舗では近年、ガソリン代の値上がりや環境問題への意識の高まり、国の税制優遇などを受け、ガソリン車よりもハイブリッド車が売れ、タイプ別ではスポーツタイプ多目的車(SUV)が特に人気だ。
人気のハイブリッド車の売れ筋タイプで現状の納期見通しを尋ねると、ヴィッツの後継でSUVのヤリスクロスは8カ月以上。SUVのカローラクロスは6月末でいったん注文を停止し、ワゴンのカローラツーリングは5カ月以上という。ハイブリッドでSUVが人気を集め、納期が遅れている。
コンパクトカーのアクアと、SUVのライズはいずれも半年以上で、ファミリーに人気の高いミニバンのヴォクシー、ノアは10カ月以上。コンパクトカーのルーミーは4カ月以上だ。店舗ではこれまで、顧客に対して車検の半年前に買い替えを提案し、車検までに新車を納車することが一般的だった。納期が不透明な今では提案時期を早めており、担当者は「1年以上前から余裕を持って検討しておくと安心」と話した。
続いては、島根日産自動車(松江市馬潟町)。同じような理由で、通常1~2カ月程度で納車だったのが、3~10カ月程度になり、どんどん納期が遅くなっている状況だという。今年発売した新型車はメーカーの想定を超える受注状況で納期が延び、日産が注力する電気自動車(EV)では特に遅れが出ている。
根強い人気があったSUVのエクストレイルは8年ぶりにフルモデルチェンジし、7月末の発売開始後も受注は好調で納期は9カ月以上。小型SUVのキックスも9カ月以上だ。
売れ筋のコンパクトカーのノート、ミニバンのセレナ、軽自動車のデイズは3カ月程度で、年内の納車が間に合う見込み。
EVではリーフで半年、今年発売を開始した軽EVサクラは8カ月。SUVのアリアは納期時期が未定だという。担当者は「ガソリン車と比べると電気自動車のランニングコストは半分以下。お客様の関心も高い」と分析した。
島根ダイハツ販売(同市浜乃木6丁目)は主力の軽自動車に納期の遅れが出ている。通常は1カ月以内に納車できていたのが、売れ筋のタント、ムーヴは3、4カ月程度となり、オプションによってはさらに伸びる状況。SUVのタフトも人気が高まり、納車まで同程度待ちそうだ。
乗用車の小型SUVのロッキーは、生産調整によって半年以上かかる状況で、担当者は「長期の代車を準備するのも難しい」と納期遅れによる悩みを話した。
島根中央ホンダ販売(出雲市渡橋町)の淋蒔歳暢(うずまき・としのぶ)社長は車種やタイプ、グレードによって時期は異なるものの「ガソリン、ハイブリッド合わせて全体的には3カ月以内に入ってくる」と話した。
圧倒的な人気を誇る軽自動車「NーBOX」でも2、3カ月程度。ハイブリッドでは、いずれもミニバンのフリードとステップワゴンは4カ月程度で、主力のコンパクトカーのフィットも同様。SUVのヴェゼルは一般的な仕様(Xタイプ)で2、3カ月程度だが、グレードの高い売れ筋は半年以上だ。
島根中央ホンダ販売では顧客の注文を受けてから新車を仕入れるのではなく、需要を見込んで先に仕入れ、納期遅れの影響を抑えているという。
全国的な新車の納期の遅れに伴って中古車の需要が高まる中、淋蒔社長は「今乗っている車の下取り価格が高くなっていることは、買い替えにとってメリット」と強調した。「乗り換えたい時期が明確ならば早めにディーラーに相談してほしい」と呼びかけた。
買い替え時を迎えた記者2人の新車探しは、なかなか難しい状況にあることが分かった。乗ってみたい車と納期と、お財布を総合的に検討して探さなくてはならない。新車が届くまで皓平の愛車が再び故障しないよう祈るしかない。












