安倍晋三元首相が奈良市内で街頭演説中に銃撃され死亡した事件で、警察庁は当時の警護を巡る検証・見直しの結果を公表した。奈良県警の警護計画や現場対応などの不備を指摘。警護の基本的事項を定めた「警護要則」を約30年ぶりに改め、これまで都道府県警任せにしてきた警護計画を事前にチェックするなど警察庁の関与を強める。

 併せて警視庁のSP(警護官)を大幅に増やす。SPに比べ要人警護の機会が限られ、経験や力量に差がある地方の警護担当者については警視庁に派遣し、SPと共に大規模警護に従事させ研修を行ってきたが、対象を拡充し底上げを図る。

 警察庁の中村格長官は25日、検証結果を説明した記者会見で辞意を表明。奈良県警の本部長も辞意を明らかにした。

 銃撃事件を受けて既に、岸田文雄首相のSPを増員するなど警護を強化。首相日程の管理も見直し、知っているのは直前まで周辺のごく一部に限定するよう改めた。松野博一官房長官についても、出張時の警護を手厚くしている。長崎市で9日に営まれた平和祈念式典では、例年なら私服警察官だけだった会場内に制服警察官も配置した。

 来月27日には、東京・北の丸公園の日本武道館で安倍氏の国葬が執り行われ、政府要人はもとより、海外からも首脳級の要人が多数参列するとみられる。警護の課題は尽きず、絶えず見直しを重ねていく必要がある。

 銃撃事件を巡り警察庁の検証・見直しチームは、奈良県警が警護計画を作成する過程で、強固な殺意を持つ人物が逮捕もいとわず銃器による襲撃に及ぶ可能性を十分検討せず、犯行抑止の効果を期待できる制服警察官の配置もしないなど、安易な前例踏襲に陥ったと指摘。安倍氏後方の警戒に隙が生まれ、容疑者の接近を許したとしている。

 警護要則は首相や国賓のほか、危害が及んだときに社会秩序に大きな影響が及ぶ要人を警護対象とし、都道府県警本部長に警護計画の作成を義務付けている。1994年に要人が応援演説などで都道府県境をまたいで行き来する際、同行する警護員が管轄外でも活動できるよう改正された。

 それ以来、改正はない。首相経験者の場合、警護計画を警察庁に報告する義務はない。警察庁は安倍氏にSPを同行させた警視庁から演説場所などの報告は受けたが、警護員の配置など詳しい状況は把握していなかった。

 チームは奈良県警の警護計画について「審査が行われていれば、修正が期待できた」とした。このため警察庁警備局に新たな部署を設けるなど警護体制を大きく拡充。都道府県警から警護計画案の報告を受けて事前にチェックし、修正などを指示する仕組みにする。

 また現場の状況を上空から把握するためのドローンや、警護対象者が演説する際に周りを覆う防弾の透明なついたてなどを導入、装備資機材の充実も図るとしている。

 とはいえ、これで警護の課題が全て解決するわけではない。容疑者はインターネット上の情報を頼りに手製銃と火薬を準備したと供述した。3Dプリンターで殺傷力のある銃を作り、摘発された事例も相次いだ。

 特に組織に属さず、単独で動いている人物について情報をつかむのは難しい。隙のない「新たな警護」に向けて点検を怠らず、対策に知恵を絞りたい。