ロシアに侵攻されたウクライナで取材したアジアプレス所属の映像ジャーナリスト玉本英子さん(56)=大阪府在住=が27日、安来市内で講演した。玉本さんは20日まで1カ月、ウクライナ南部の都市オデーサに滞在し市民の声を拾った。講演要旨は次の通り。
ウクライナに行って思ったのは、ぱっと見は、大変そうに見えないが、市民は非常に過酷な経験をしているということだ。
私がいた1カ月、ほぼ毎日、地下シェルターへの避難を促すサイレンが鳴った。市民からは「毎日鳴るから、そのたびシェルターに行くのは大変。普通に過ごすようになった」との声も聞いた。
攻撃されたアパートの様子を見に行くという女性と5歳の男児に出会い、ついて行った。アパートに着くと当時を思い出したのか、男児が「嫌だ。入りたくない」と叫んだ。なぜかと聞くと「全部崩れてバラバラになっているから。すごく良かったのに、バーン、バーン、バーンっていった」と言う。大きな音がすると怖くなるとも話していた。
心に傷を負った子どもは多い。犬のぬいぐるみの世話をさせ、心の傷を癒やすセラピーも取材した。10才の少女は「サイレンが鳴ると、なぜか泣いてしまう。シェルターは暗くて狭く、心が痛くなる」という。セラピーを施す精神科医からは「子どものトラウマ(心的外傷)を完全になくすことは無理。しかし、将来のため少しでも軽減することが大事だ」と聞いた。
ロシアに支配された東部の都市マリウポリから、母親と一緒に避難してきた15歳の少女にも出会った。命の次に大事な物だと言って持ってきていたのが、日本の漫画やアニメの品だった。日本でも人気の漫画「呪術廻戦」の単行本は宝物だという。
心に傷を負いながら頑張ろうとしていた。「あす生きているか、分からない。今に感謝し愛する人を大切にするようになった。なぜなら、死んだらできないから」と話していた。
戦地を取材して思うのはいかに戦争をなくすかだ。これは難しい。答えは出ていない。それでも考え続けなきゃいけないと思う。
ウクライナの人に「戦争が早く終わるといいですね」と話すと「ここで終わったら、ロシアに支配される。だから、突き進むしかないんだ」と返ってきた。
そういう状況に陥ると、もう止められない。前の段階で止める強い努力が必要だ。ウクライナの人は「昨年はこんなことになるとは考えてもみなかった」と話していた。私たちも、人ごとではないということを心の隅に置き、社会の動きに心を寄せることが大事だ。