島根県庁
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 新型コロナウイルス感染者が連日数百人規模で確認されている島根県内で、重症化リスクのある感染者が医療機関に入院できない状況となっている。救急搬送に備えて確保病床に余裕を持たせ、医療逼迫(ひっぱく)を防ぐため、軽症者は年齢や基礎疾患の有無にかかわらず自宅や宿泊施設での療養に振り分けざるを得ないためだ。

 「この先、どうなるのかと、そればかりだった」。基礎疾患のある松江市内の70代男性は7月の自宅での療養生活を振り返る。

 熱が下がらず焦りと不安が募った。保育園に通う孫の感染が判明した数日後に喉の痛みを発症し、検査で陽性を確認。37~38度台の熱によるけん怠感に悩まされつつ、糖尿病を患う身として容態急変の兆しがないか注意した。家族が心配する中、1週間後から徐々に快方に向かい「なんとか治ってくれた」と胸をなで下ろした。

 高齢の感染者について、県は6月までは原則入院としていたものの、現在は中等症以上で医師が直ちに医療措置が必要と判断しなければ、自宅などで療養してもらっている。

 感染拡大が続き、7月上旬以降の療養者数は1日約7千人に上り、このうち高齢者や基礎疾患のある人などが約2千人を占める。

 県内でコロナ感染者用に確保する専用病床数は最大371床。8日午前0時時点の病床使用率は29・6%で、数字上は7割の余裕があるように見えるが、1日で30~50人規模の自宅療養者が救急搬送されてくるため、常に一定の空きベッドを確保する必要がある。

 感染や濃厚接触で医療スタッフの欠勤が相次いでいるほか、入院中のコロナ患者の9割は高齢者で介護が必要なケースも多い。県によるとこうした状況で病床使用率が50%に近づけば、一般診療を制限せざるを得ない状況が生じるという。

 8月31日には、自宅療養中の高齢者が死亡する事案が発生。前日夕方の健康観察では快方に向かっていることが確認されており、健康観察や家族の目が離れる深夜帯に急変した可能性があるとみられる。

 県感染症対策室の田原研司室長は「大きな宿題を与えられている」とし、患者の急変を察知するためのより綿密な体制を構築する必要性を強調する。全病床が6千床に満たない県内で、これ以上新型コロナ用の病床を増やすことは不可能で「感染者数の水準を下げていくことに今後も主眼を置いていく」と述べた。
     (佐々木一全)