旧統一教会信者の2世として育った島根県在住の30代女性が取材に応じた。教義の強制や経済的困窮を強いられた過去を語り「教会と親に人生を乗っ取られた」と訴える。専門知識を持つ弁護士が地方には少ない課題に直面し、同じような被害に苦しむ人たちを救うため、全国に法律相談窓口を開設し、連携が図られるよう声を上げる。(白築昂)
狭い事務所内に置いてあるホワイトボードに、びっしりと書かれた信者の名前。その横には数字とともに、献金を意味する隠語「K」の文字が並ぶ。幼少期に目にした情景が、いつまでも記憶から消えない。
旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の合同結婚式で出会った両親から生まれた「祝福2世」として育った。両親は「公職者」と呼ばれる教会の職員だった。
幼い頃はよく事務所のソファで寝かされた。その横で両親や信者たちは「この人からはいくら取れそうだ」といった相談を深夜2時、3時まで続ける。備え付けのファクスには、本部から状況報告やノルマの連絡が絶え間なく入ってくる。
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旧統一教会(世界平和統一家庭連合)信者の2世として育った島根県在住の30代女性は、教会職員だった両親に連れられ幼少期から全国を転々としていた。
霊感商法でつぼや印鑑を売り歩くものの、簡単には売れない。教会から支払われる給料のほとんどは、献金へと消えていく。母親は実家に金を無心したが足りず、家庭に全くといっていいほどお金がなかった。
合同結婚式で結ばれた両親の夫婦関係は険悪で「家族の愛情を感じたことはない」。小学生になるとネグレクト(育児放棄)が日常化。冷蔵庫は空っぽで、炊飯器に残るくず米を食べた。毎日朝晩、教団創設者の写真に向かって土下座でお祈りさせられるのが苦痛だった。
学校に通い始めると、自分の家庭の〝異質さ〟を痛感した。「クラスの友達の前で親の職業を発表する機会があり、統一教会や教義のことを話すと、みんなが引いているのがすぐ分かった」。両親に対し「うちの家はおかしい」と言えば「サタンの考えだ」と頬を打たれた。
自己防衛のため、家庭内では信仰心があるふりをしつつ、学校では普通の子どもとして振る舞う、二重のうそをついた。島根に引っ越して以降は、家庭内のことを完全に隠し、友人には「父は一般企業で働いている」とうそをついた。
年金受給ない状態
大学生の時、家庭の状況が一変する。両親が教会側から突如、解雇を言い渡され収入が全くなくなった。それでも献金は続く。ついには祖父母が残した大学資金にも手を出された。奨学金の受給では足りず、死に物狂いでアルバイトをしながら1人で家族を養ってはいたものの「このままでは、だめになる」と決意し、洗脳が解けつつあった母を伴って県外に逃げた。
数年して島根に戻り一般男性と結婚。県外に出て以降、母親の洗脳は完全に解け、介護の末にみとった。
父親は今も末端の信者だが、住民票に閲覧制限をかけ、向こう側から居場所を調べることはできない。
年金受給はない状況だといい「同じような状況に陥っている高齢信者が数多くいる」と指摘する。
弁護士の協力必要
安倍晋三元首相の銃撃事件で旧統一教会の問題にスポットが当たったことをきっかけに、行動に出た。フランスの反セクト(カルト)法を参考にした日本国内での法整備を訴えるグループなどに入った。
教会側へ請求を目指すのは、現在も返済する奨学金▽「祝福2世」として苦しめられた人権侵害に対する慰謝料▽年金を受けられなかった母親が本来得るべきだった年金額-の3点。同じような信者2世や信者の親族などの声を広く集め、救済につなげようと、全ての都道府県に法律相談窓口をつくることを目指す。
献金を巡る金銭問題や人権侵害などの問題と絡むため、弁護士の協力が不可欠。ただ、首都圏と違い、地方には霊感商法やカルトへの専門知識を持っている弁護士が数少ない。
「専門知識がなければ、法律の俎上(そじょう)に載せることが難しい。弁護士会単位で声を集めつつ、都心部にいる専門弁護士と連携を図ってほしい」と語気を強める。
わずかでも相談を
日弁連(東京都)は全国の弁護士会に相談窓口の設置を要請し、東京や大阪、富山、群馬、大分、島根などで既に立ち上がった。
教会を巡る問題が出るほど、自分と同じ境遇にある人を救いたいという気持ちが募る。「泣き寝入りしてきた被害者を1人残らず救済できるかが課題」とし、「元信者や現役信者、2世、3世にかかわらず、親族や知人を含め誰でもいい、わずかなことでもいい。何らかの被害を受けたと感じている人が相談できる窓口をつくることが重要だ」と訴える。
2世問題の状況 全国で聞き取り
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)広報部の話 信者2世の問題について、昨年から全国の教会の教会長が家庭訪問を行い、状況を聞き取ったり、可能であれば(2世の)当事者本人と話したりして、心境や悩みなどを聞き取っている。生々しい証言もあるので、場合によってはこちらから反省を伝え、安心してもらっている。対面が難しければメールや電話でも受け付けている。今後そうした対応をさらに強化する考えだ。