山陰中央新報社が運営する「子ども食堂」がオープンした。食堂はどんな雰囲気なのか、社員ボランティアとして参加した日の様子を伝える=松江市殿町、子どもご縁食堂
山陰中央新報社が運営する「子ども食堂」がオープンした。食堂はどんな雰囲気なのか、社員ボランティアとして参加した日の様子を伝える=松江市殿町、子どもご縁食堂

 城下町・松江の中心部に4日、「子どもご縁食堂」(松江市殿町)がオープンした。子どもたちに無料で食事を提供して、地域や世代を超えた交流の場にしようとの試みで、山陰中央新報社が運営する。子ども食堂はどんな雰囲気なのか、オープンの日に「社員ボランティア」として参加してみた。(Sデジ編集部・宍道香穂)

 「子ども食堂」は食事を無料または低額で提供して、地域の交流の場につなげようとする取り組みで、島根県内には8月末で、53カ所の「子ども食堂」がある。

▷地域の人が野菜を提供
 松江城からほど近い殿まちギャラリーを改修してオープンした「子どもご縁食堂」。この日のメニューは夏野菜をふんだんに使った「手づくりカレーライス」。地域の人から子ども食堂にと提供されたキュウリやトマト、ナス、カボチャのほか、タマネギや豚肉も入っている。食事は毎回、地域の人や社員のボランティアが手作りする。
 食堂は毎月第2、4水曜日、午後5時45分から同7時45分に開かれ、食事は同6時15分から提供する。高校生以下無料、保護者300円でカレーや焼きそばといった簡単に作れる食事を提供する。

松江城からほど近い、殿まちギャラリー(松江市殿町)を改修しオープンした「子どもご縁食堂」。山陰中央新報社が運営し、毎月第2、第4水曜日に開く

 開設セレモニーが終わり、オープン時間になるとちらほらと参加者の姿が見え始めた。当日の参加者は親子連れ18人。記者はまず受付を担当し、保護者や子どもたちと会話をしながら検温など受付作業を進めた。

▷食事の前に本の読み聞かせ
 食事の前は毎回、学習支援や本の読み聞かせといった交流の場が設けられる。この日は、島根県立大の女子学生3人が2冊の絵本を読み聞かせし、手遊びを紹介して場を和ませた。読み聞かせにじっと耳を傾ける子どもたちの顔や、子どもたちに優しいまなざしを向ける保護者の姿が印象的だった。

島根県立大の学生による読み聞かせの様子。学生の優しい語り口調に、子どもたちがじっと耳を傾けていた

 読み聞かせが終わると食事の時間。食欲をそそるカレーのにおいが会場に広がる。盛りつけられたカレーやおかずをトレーに乗せ、子どもたちに配膳する。子どもたちの元にカレーを運ぶスタッフはみんな、にこやかで柔らかい表情を浮かべていた。「おいしそう」「もう食べていい?」「いただきまーす!」―おいしそうなカレーを前に目を輝かせ元気よくほおばる子どもたちの姿に、調理スタッフも幸せそうに眼を細めていた。

参加者にカレーライスを配膳する記者。夏野菜をやわらかく煮込んだカレーは好評で、野菜が苦手な子どもたちもぺろりと平らげた

▷美味しく食べたら、団らんの時間
 新型コロナ対策で隣り合う席の間にアクリルスタンドが設置され、食事中は子どもたちとおしゃべりができない。それでも、同じ空間で一緒に食事をするとみんなが穏やかで温かい気持ちになるのだなぁと思った。

 食事の後は食堂に置かれた紙やペンでお絵かきをしたり、会話を楽しんだりと、団らんの時間に。自宅での夕食と違って、保護者は後片付けをする必要がなく、子どもとの時間をゆっくり楽しんでいるように見えた。記者も「何描いてるの」「うまいね」と話しかけ、久しぶりに年の離れた子どもたちとおしゃべりする機会を楽しんだ。

食堂にはお絵かきセットやおもちゃが置いてあり、参加者が自由に使うことができる
絵本や漫画、雑誌も用意され、さまざまな世代の人が楽しめる

 日頃はスーツ姿しか見たことがない社員たちがTシャツとジーパンというラフな服装で子どもと接しているのは新鮮な感じがした。仕事仲間の新たな一面を見たようで少しうれしかった。事前の打ち合わせで「スーツなど仕事の服は子どもたちが怖がってしまうので、ラフな格好で」と言われていたのに、記者はつい仕事用の服のまま参加してしまった。次、参加する時は服装に気を付けなくては。

▷新たな「居場所」 県内で激増
 子ども食堂は安来市出身の女性が東京都内で2012年に始め、全国に広がった。今では全国に6千カ所以上(2021年時点)あるという。島根県内の子ども食堂は近年、大幅に増加し、20年秋時点の11カ所と比べると5倍近く増えている。地域住民や世代の異なる人と触れ合う機会が減り、子ども一人で食事をすることが珍しくなくなった状況を踏まえ、新たな「居場所」を作ろうとする動きが活発になっているとしたら、いいことだと思う。

食事の様子。子ども食堂は日頃関わることが少ない地域住民や異世代の人と交流できる、温かい場所なのだと感じた

 今回、7歳の孫と参加した女性は記者に「いろいろ(孫に)話しかけてくれてありがとうございました。大人の人とおしゃべりする機会はなかなかないので、孫にとって良い経験となったと思う」と声をかけてくれた。
 小さな子どもや中学生、高校生と会話する機会はめったにない。記者は年が離れた妹や親せきがいて、子どもとの会話には慣れているつもりだったが、初対面の子どもたちと話すのは新鮮な感覚だった。何よりも一生懸命に絵を描いている姿や、おいしそうにカレーをほおばる姿は、日頃の仕事中心の生活では得られない癒しを感じた。

▷子どもとゆっくり過ごせる場
 8歳と5歳、二人の娘と訪れた松江市内の女性は「野菜がたっぷりでおいしかった。ナスが苦手な子どもも、おいしいと食べていた」と笑顔を見せてくれた。以前はたまに子ども食堂へ足を運んでいたが、新型コロナ禍の影響で運営が中止になったという。「普段は夜ご飯が終わったら片付け、ほかの家事、お風呂などバタバタと過ごしている。ここ(子ども食堂)では食事の準備や片付けの必要がなく、子どもとの時間を過ごせる」と本当にうれしそうだった。

参加者と交流する記者。子どもたちが思い思いに描く絵を見るのは楽しく、会話がはずんだ

 これまで子ども食堂には「子どもたちが安くご飯を食べられる場所」というぼんやりとしたイメージしか持っていなかったが、食事の準備や家事に追われている保護者の負担を減らし、家族だんらんの時間を増やす役割も担っているのだと実感した。
 また、地域の人が集まって、日頃は関わることがない世代の人と穏やかな雰囲気で話したり笑ったりできる温かい場所なのだと感じた。子どもや保護者、地域の人の憩いの場が継続していけるよう、今後もボランティアに参加したいと思った。でも社内のボランティア希望者は多く、しばらくは枠に空きがないらしい。ボランティア希望者が多いと聞いて、ちょっと頼もしく思った。

子ども、大人の両方にとって心安らぐ場所となりそうな「子ども食堂」。憩いの場を絶やさぬよう、今後もボランティアに参加したいと思った

▷ボランティア希望者は次々
 一緒にボランティアに参加した先輩は「オフィスで働くより(子ども食堂でボランティアに参加する方が)ずっといい」とそっとつぶやいた。にこやかにボランティアに参加する同僚たちを見て、子ども食堂は大人にとっても心安らぐ憩いの場になりそうだと思った。

 「子どもご縁食堂」は毎月第2、4水曜日、午後5時45分から同7時45分に開く。祝日の場合は前日に開催。申し込みは公式LINEアカウントか電話で開催月の前月下旬から受け付ける。詳しくはこちら。問い合わせは山陰中央新報社子どもご縁食堂担当、電話080(2928)9016。平日午前10時から午後5時まで。