雲南市と島根県奥出雲町にまたがる尾原ダムが完成10周年を迎えた。斐伊川流域の治水・利水を目的に建設され住民の生活を守る一方、山あいの豊かな自然や施設を活用したイベントも年50回以上開催。観光スポットとなっている。 (山本泰平)
ダム最上部にあるクレストゲートがゆっくり開かれると、貯水池「さくらおろち湖」の大量の水が巨大な滝のようになって流れ落ちる。「おー」「すごい」。見学者を驚かせてきた1日限りの光景だ。
ゲート開放はダムが完成した2012年から続く年1回の人気イベントで、18年は県内外から約1500人が見学に訪れた。19年は水不足、20年は新型コロナウイルス禍による中止もあったが21、22年は対策を練り、インターネットの動画配信などで続けてきた。
国土交通省出雲河川事務所とともにイベント運営の核を担うのは、ダムとダム周辺の活性化に取り組むNPO法人・さくらおろち(亀山一敏理事長)。さまざまに展開してきた。
13年に始めた子ども向けの遠足事業には今年、地元以外から五つの保育園・子ども園から園児が訪れた。ダムの内部見学に加え周辺の牧場での体験型観光や、恐竜関連の展示物がある近くの奥出雲多根自然博物館での鑑賞を組み合わせる。ほかにダムは水害対策を学ぶ学校の地域学習の場としても活用されるほか、周辺の観光施設と連携し毎年開くさくらおろち湖祭りは、いつも数千人が訪れる。
イベントに加え、スポーツの拠点としても知られるようになった。さくらおろち湖にはボート競技施設が造られ、ダム周辺は自転車競技用施設も整備。高校生が練習し、大会会場にもなっている。
NPO法人の田川容理事務局長は「行政や住民団体、競技団体と連携し地域おこしに全力で取り組んでいる」と話す。ダムを管理する出雲河川事務所尾原ダム管理支所の河口幸広管理支所長は「イベント、スポーツはダムの役割や重要性を知ってもらう機会」とし、啓発や情報発信の拠点になっていると強調する。
今年のさくらおろち湖祭りはダム完成10周年も記念し16日、ボート競技施設で開催。地元の三刀屋高校吹奏楽部の演奏やダム見学などある。
▽尾原ダム
洪水調節、環境保全、水道用水供給の機能を備えた多目的ダム。斐伊川上流にあり、総貯水容量は6080万立方メートル。斐伊川・神戸川治水対策事業「3点セット」の一つとして、神戸川上流の志津見ダムとともに建設された。ほかに、中流部の斐伊川放水路(出雲市)、下流部の大橋川(松江市)改修事業がある。