新型コロナウイルスと今季インフルエンザの動向について話す中村嗣医師
新型コロナウイルスと今季インフルエンザの動向について話す中村嗣医師

 新型コロナウイルスの感染者数が全国的に減少する一方で、インフルエンザの流行が懸念される季節を迎えた。海外では既にインフルエンザが流行した国があり、日本では10月にインフルエンザのワクチン接種が本格的に始まった。日本で新型コロナとインフルエンザの同時流行は起こるのだろか、専門医に聞いた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 

 政府は13日、新型コロナとインフルエンザの同時流行対策を発表した。重症化リスクの低い人が発熱した場合はできるだけ発熱外来を受診せず、新型コロナの自己検査を行う。陰性ならばインフルエンザの可能性を見据えてオンライン診療が受けられる態勢を整えるというもの。

 患者数はピーク時に1日でコロナが45万人、インフルエンザが30万人の計75万人の患者が発生する可能性を想定した。

 島根県立中央病院(出雲市姫原4丁目)の感染症科部長の中村嗣医師(59)は「昨年は世界的にインフルエンザがはやらなかったのに対し、今年はオーストラリアといった南半球ではやった。日本でも同様に流行する可能性はある」と指摘した。

 南半球でインフルエンザが流行した主な理由は分かっていないが、感染の主因はコロナは飛まつ感染、インフルエンザは接触感染といった違いがあるという。中村医師は「二つ以上のウイルスが人の体内で増え続けるのは難しい。ウイルスは生存競争なので、どちらかが大流行すればどちらかは減ることが多い。昨年はたまたまコロナの方が強く、インフルエンザが流行しなかったのだろう」と、同時に流行する可能性は低いと推測した。

「理論的には感染症が複数流行する可能性はあるが、大抵はどちらかのウイルスが優勢になる」と話す中村嗣医師

 

 ▼コロナは減少傾向、2桁感染の日も

 山陰両県のコロナ感染者数は減少しつつある。島根県は7月2万3195人、8月2万7850人に対し、9月は1万1760人。鳥取県は7月1万2063人、8月は2万5525人で、9月は8781人。10月以降は両県ともに感染者数2桁の日があり、収束とは言えないまでも、ピークは越え落ち着いてきたようにも映る。

 コロナの流行以降、感染予防として手洗いやうがい、消毒に励行したことで、インフルエンザの感染者数は激減したとされる。厚労省によると、インフルエンザの患者報告数(定数報告)は2019年が187万6083人だったのに対し、コロナが出現した20年は56万3487人と約3分の1に。専門家の間では、20年に国内で集団免疫が形成されなかったことで、21年は大流行するとの予測もあったが、21年の報告数はわずか1071人にとどまった。

手洗いやうがいをする子どもたち。コロナの流行以降、消毒や手洗いに気を遣う人が増え、インフルエンザ患者数は大きく減った(資料)

 ただ、日本感染症学会によると、南半球のオーストラリアでは22年4月後半から報告数が増加し、例年を越える規模になったという。日本でも、22年の報告数は9月25日時点で2170人(主に1~3月)と、既に21年を超えている。これから気温が下がり乾燥する冬場を迎えてどうなるかだ。

 

 ▼昨年はインフルワクチンが供給遅れ、今年は

 インフルエンザは例年、1~2月にピークを迎える。流行に備え、10月から各地の病院やクリニックでインフルエンザワクチンの接種が始まった。21年にはコロナワクチンの製造が始まったことでワクチン容器に使う資材が不足し、インフルエンザワクチンの供給が遅れ、一時期、接種が滞るという事態が起きた。

インフルエンザのワクチン。昨年はコロナワクチン製造の影響で供給が遅れたが、今年は…(資料)

 かわつ田中クリニック(松江市西川津町)では21年、10月に接種予約の受け付けを始めたが、予約が2週間で入荷予定量に達し、予約受け付けを一時中断した。今年は9月に受け付けを開始。供給が遅れることはなく、10月から予約者に通常通り接種を開始したという。

 田中賢一郎院長(39)は「今年は海外旅行の規制が緩和され、海外で流行していた国からインフルエンザウイルスが持ち込まれる懸念がある。国内では最近流行しなかったため免疫が落ちており、インフルエンザが大流行する可能性はある」と分析した。高齢者や基礎疾患を持つ人に向け、接種を希望する人は10~11月中にすることを勧めた。

 21年のように、急いでインフルエンザワクチンの接種予約をする必要はなさそうで一安心だ。

海外旅行の規制緩和や全国旅行支援の開始により、人の動きも活発化する(資料)

 

 ▼ワクチンの同時接種、効果や副反応はどうなる?

 新型コロナでは、3回目以降の接種希望者(12歳以上)を対象に、オミクロン株対応の新たなワクチン接種も始まった。インフルエンザワクチンとオミクロン株対応ワクチンの同時接種は、効果や副反応はどうなるのだろうか。

 中村医師は新ワクチンはオミクロン株に反応しやすい成分が追加されただけで「これまでのワクチンと基本的に同じ。同時接種しても効果や副反応に違いはない」と解説した。21年までは、互いのワクチン接種から2週間の間隔を空けるよう厚労省の指示があったが、22年7月には間隔を空けない同時接種でも問題ないことが示された。

 コロナとインフルエンザ、どちらが流行するかは分からないが、中村医師は手洗いやうがい、免疫力を落とさないようにするといった基本的な感染対策を改めて勧める。「冬の乾燥した時期は確かにウイルスが活動しやすいが、コロナもインフルエンザも、直接的な感染原因は乾燥状態よりも、屋内に人が多く集まったことによる場合が多い。マスクは着ける、着けないの二者択一でなく、人が多い場面で着けるなど状況に応じて使い分けてほしい」と呼びかけた。

厚労省は、屋外では原則マスク着用は不要と呼びかける。人の多さなどを見て臨機応変に対応したい

 

 10月11日から国の全国旅行支援も始まり、感染症予防と経済活動の両立が進む段階になった。コロナとインフルエンザともに気がかりな季節を迎える。あらためて感染予防対策を意識したい。