自民、公明両党が開いた国家安全保障戦略など3文書改定に向けたワーキングチーム会合。他国領域でミサイル発射を阻止する反撃能力保有で合意した=2日午後、国会
自民、公明両党が開いた国家安全保障戦略など3文書改定に向けたワーキングチーム会合。他国領域でミサイル発射を阻止する反撃能力保有で合意した=2日午後、国会
自民、公明両党が開いた国家安全保障戦略など3文書改定に向けたワーキングチーム会合。他国領域でミサイル発射を阻止する反撃能力保有で合意した=2日午後、国会

 相手国の領域内を攻撃する能力を持つことは、もはや「専守防衛」とは言えまい。憲法9条の下、戦後堅持してきた防衛政策の抜本的な転換となる。政府、与党だけで重大な政策転換を急ぐのではなく、国会で徹底的な議論を行うべきだ。

 自民、公明両党は岸田政権が月内に改定する外交・安保政策の長期指針「国家安全保障戦略」など3文書を巡り、相手のミサイル発射拠点などをたたく敵基地攻撃能力について「攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の自衛の措置」としての「反撃能力」を保有することで合意した。

 5年以内の防衛力の抜本的強化を打ち出す岸田文雄首相は2027年度までに防衛関連予算を国内総生産(GDP)比2%にする考えも示しており、これで3文書の骨格が固まった。

 中国の軍事的活動、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮、ロシアのウクライナ侵攻などで国民の不安が高まるのは当然だ。しかし、反撃能力の保有には問題点が多い。防衛力増強は逆に地域の緊張を高める恐れもある。

 問題点の一つ目は、「必要最小限度」の定義が曖昧で、歯止めがないことだ。敵基地攻撃は憲法解釈上、「自衛の範囲」に含まれるとされるが、歴代政権は政策判断としてその能力は保有してこなかった。政府は反撃能力保有の理由にミサイル技術の向上で迎撃が困難になっていることを挙げる。だが、どの程度の能力が「必要最小限度」なのかは不明確だ。

 政府は相手の射程圏外から攻撃できる国産の「スタンド・オフ・ミサイル」の導入や、米国製巡航ミサイル「トマホーク」購入を検討している。長射程ミサイルの大量保有を「必要最小限度」と言えるのかは疑問だ。

 二つ目は、国際法違反の「先制攻撃」となる恐れが拭えないことだ。政府、与党は抑止力向上のための反撃能力だと説明するが、第一撃を受けることは想定していない。「相手のミサイル発射を制約」するとして、発射に着手した時点での攻撃を想定している。

 しかし、発射方法が多様化し、その兆候を把握するのが難しい中で、着手をどう判断するのか。客観的事実で証明できなければ先制攻撃とされるだろう。

 日本と密接に関係する他国への攻撃も反撃対象となる。岸田首相や与党は「専守防衛の理念は堅持する」と言うが、専守防衛は形骸化すると言わざるを得ない。

 三つ目は、そもそも抑止力として機能するのかという点だ。他国が本気で日本を攻撃するならば、日米安保条約に基づく米軍の反撃も覚悟の上だろう。日本が独自に反撃能力を持ったとしても、その覚悟を変える抑止力になるとは考えにくい。

 13年に策定された現行の国家安保戦略は、日本が取るべき「戦略的アプローチ」の筆頭に「安定した国際環境創出のための外交の強化」を挙げ、「脅威の出現を未然に防ぐこと」を掲げている。政府はこれまで、その努力を尽くしたのか。

 重大な政策転換でありながら、政府の説明は不十分だ。岸田首相は国会答弁では「あらゆる選択肢を排除せず、現実的な検討をする」と具体的見解は示さないまま、与党には反撃能力案を提示した。岸田首相が掲げる「信頼と共感の政治」とは程遠い。丁寧な説明と真摯(しんし)な議論を求めたい。