スペインに勝利し、決勝トーナメント進出を決め喜ぶ日本代表=ドーハ(共同)
スペインに勝利し、決勝トーナメント進出を決め喜ぶ日本代表=ドーハ(共同)

 サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会で日本が決勝トーナメント進出を決めた。初戦でドイツ、最終戦でスペインと、ともに優勝経験のある強豪に逆転勝ちする番狂わせを2度演じた。逆境から立ち上がった粘り強さに、日本列島が久々に沸き立っている。

 新型コロナウイルスの大流行により昨夏の東京五輪は無観客開催で、パブリックビューイングも中止の寂しい大会だった。W杯も同じコロナ下の開催ながら行動規制は緩和。現地の会場にはサポーターの歓声が響き、国内でも各地の大画面前にファンが集った。

 スポーツの祭典は観客やファンとの共存がいかに重要かをあらためて実感した。ドイツ戦、スペイン戦で劇的な逆転ゴールが決まった瞬間。深夜、未明の列島を揺るがした歓喜の声に、多くの人の心を一つにするスポーツの力が表れていた。

 この2勝は日本サッカーのレベルアップを示している。これまでW杯では何度も逆転負けの苦杯を喫してきた。前回はベルギー戦で2点を先行しながら逆転を許して8強を逃した。W杯での逆転勝利、優勝経験国相手に勝利のいずれもドイツ戦が初めてだった。「奇跡」とも形容された試合をスペイン戦で再現した。

 森保一監督の手腕も評価したい。2試合ともに1点をリードされた前半を終えると、後半に次々と交代選手を投入。代わった選手がそろって活躍して逆転につなげた。劣勢にも慌てず最善手を打った采配が歴史的な2勝を演出したといえよう。

 日本の決勝トーナメント進出は4度目。日本人監督による進出は2010年大会の岡田武史、18年大会の西野朗監督に次ぐ。岡田、西野両監督は前任の外国人監督の退任、解任の後を引き継いだが、森保監督は4年半かけて戦術をじっくりと磨ける時間を生かした。

 年齢制限があり若手中心で構成した東京五輪の代表監督を兼務したこともプラスに働いた。五輪チームからは、今大会で同点ゴール2度の堂安律選手ら12人がW杯代表入り。五輪には年齢制限対象外の枠でW杯主力の吉田麻也、遠藤航選手らも出た。若手とベテランの融合にも成功した。

 代表26人のうち、欧州でプレーする選手が19人。長友佑都選手ら3人は帰還組だ。初出場した1998年大会では欧州組はゼロ。選手の積極的な海外進出、厳しい欧州でのキャリアアップが戦力の層を厚くした。

 こうした積み重ねが強豪相手にもひるまない選手のメンタリティーをつくったのだろう。堂安選手はスペイン戦後に「1戦目が奇跡ではないことを分かってもらえた」と話した。地力を証明した会心の1次リーグ首位通過をたたえたい。

 次戦からは未知の領域に踏み込みたい。日本は過去3度進んだ決勝トーナメントでは惜敗続きでいずれも1回戦敗退。悲願のベスト8への厚い壁を、悔しい経験と今回つかんだ自信を糧にして乗り越えてほしい。

 国際的な競技力向上とサッカー文化醸成を目指してJリーグが93年に発足して30年目。地域にサッカーの裾野は広がり、少子化の時代にあっても子どもたちのサッカー熱はなお盛んだ。ジュニア向けの公認指導者数も大幅に増えた。環境整備が進む日本サッカー界の頂点に位置する代表チームが、大舞台で躍進する姿を応援したい。