世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の高額献金(寄付)問題を巡る被害者救済新法案が閣議決定された。政府与党は、霊感商法被害の救済拡充に向けて先に提出した消費者契約法などの改正案と合わせて、今国会中に成立させたい考えだ。
新法整備について、与野党が協議を始めてから約40日になる。双方に政治的思惑もあるにせよ、家庭崩壊につながりかねない寄付被害を重大視し、未然防止と救済を目指すことでは一致しているはずだ。
その意味で、政府が協議過程で提示した新法の概要に対して野党や被害関係者らから上がった指摘を受け止め、法案化に際して一部を修正したことは一歩前進と言えるだろう。ただ依然として十分とは言い難い。
野党、被害関係者らからは「救済効果は限定的」の批判が根強く、スピード最優先の「早かろう悪かろう」では意味がない。国会では会期延長もにらみながら詰めの議論を進め、必要に応じて柔軟に修正すべきだ。
「概要」段階からの大きな修正点の一つは、寄付勧誘時の法人側の配慮義務規定を設けたことだ。
(1)自由な意思を抑圧し、適切な判断が困難な状態に陥らせない(2)個人や家族の生活維持を困難にしない(3)勧誘する法人名などを明らかにし、寄付金の使途を誤認させない―の3点を明記した。
野党側は当初からマインドコントロール(洗脳)下の寄付規制を強く求めていた。政府は「マインドコントロールを法律で定義付け、規制するのは困難」との立場だが、一定歩み寄ったものだ。しかし、禁止規定ではなく、取り消し権の対象でも刑事罰の対象でもないため、野党などの不満は解消されていない。
岸田文雄首相は国会で、配慮義務規定によって「民法上の不法行為の認定や賠償請求がしやすくなる」と説明したが、既に規定と同様の事実関係で勧誘の違法性を認めた民事判決は多く存在する。新たな効果がどれだけ期待できるかは疑問だ。
配慮義務の一部でも、さらに要件を絞り込んで禁止規定や刑事罰の対象にする必要はないのか。国会で議論を尽くしてもらいたい。
ほかの修正では、最終的に刑事罰(1年以下の懲役や100万円以下の罰金)の対象になりうる禁止行為のうち「借金や自宅などの処分」による寄付要求に「事業用資産」も含めた。
田畑や工場、店舗などを想定している。被害者ヒアリングに基づく野党の主張を受け入れたものだ。
一方で、批判を受けながら修正されなかった点もある。例えば取り消し権の対象にもなる禁止行為違反についてだ。「『霊感』等で不安をあおる」など6類型の勧誘によって「個人を困惑させた」場合に適用される。
これには「マインドコントロール下では、困惑せず進んで寄付する」として「困惑」を要件から外すように求める声が根強かったが、政府は応じなかった。これも突っ込んだ議論が必要だ。
岸田首相は国会で「日本の法体系の中で、最大限の救済を追求している」と答弁した。
もちろん憲法が保障する財産権などとの整合性を取ることは極めて重要だ。言葉どおり、それらと調和を図りつつ、被害防止・救済の実効性を確保してもらいたい。それが首相の責任だ。