記者会見に臨む蔡英文総統=11月26日、台北(共同)
記者会見に臨む蔡英文総統=11月26日、台北(共同)

 台湾で4年に1度の統一地方選が行われ、最大野党、国民党が圧勝、蔡英文総統が率いる与党、民主進歩党(民進党)は大敗した。2024年初めの総統選の前哨戦と位置付けられており、蔡氏は敗北の責任を取って党主席を辞任した。

 台湾有事が取り沙汰される中、対中独立志向の民進党と融和路線の国民党の力比べが注目されたが、選挙では新型コロナウイルス対策や経済など内政問題で論戦が交わされ、対中関係は主要な争点にならなかった。

 国民党は勢いに乗って総統選で政権奪還を目指し、民進党は政権維持に向けて態勢立て直しと総統候補選びを急ぐ。中国は独立勢力と見なす民進党政権に圧力をかけ、国民党を後押ししそうだ。

 しかし、民主化された台湾の住民の多くは強権的な中国との統一を望んでいない。中国は武力威嚇や孤立化戦略で蔡政権への嫌がらせを続けるべきではない。有事を回避し、中台で台湾海峡の平和と安定を維持することが何よりも重要だ。

 地方選で争われた台湾全土21の市・県長のポストのうち、国民党は13を獲得したが、民進党は5。得票率は国民党50・03%、民進党41・62%。民進党は大敗した前回選挙より深刻な惨敗をした。台北市長選では、初代総統、〓(草カンムリに将の旧字体)介石のひ孫で国民党の〓(草カンムリに将の旧字体)万安氏が民進党の前衛生相を破った。

 敗因の一つは民進党の地方組織の弱さ。1945年以降、通算60年以上政権の座にあった国民党の地方組織は今も根強い。同党はコロナワクチン調達の遅れや経済不振、腐敗を追及し、蔡政権への批判票を集めた。

 蔡氏は「中国の権威主義が台湾人の自由と民主主義を脅かしている」と「抗中保台」(中国に抗し、台湾を守る)を訴えたが、多数の有権者には届かなかった。

 6月の政治大学の世論調査によると、自分は「台湾人」と認識する人は63・7%、中台の「現状維持を望む」は56・9%に上った。支持政党は民進党31%、国民党14%、無党派層は46%。この結果を見れば、対中政策を担う中央政権を決める総統選では独立志向の民進党が有利だが、浮動票が行方を決める可能性もあり、予断は許さない。

 中国政府は今回の選挙について「平和と安定を求め、良い暮らしをしたいという主流の民意を反映した」と国民党勝利を暗に歓迎し、独立反対と中台関係の平和的発展を訴えた。あえて「統一」という言葉を使わないソフトなコメントで台湾住民の懐柔を試みた。

 2008~16年の国民党政権時代、中台は「一つの中国」の原則で一致したとされる1992年合意に基づいて関係改善を進めた。就任後合意を認めなかった蔡氏を中国は独立勢力と決め付け、対話を拒否してきた。

 8月、中国はペロシ米下院議長訪台に反発して台湾周辺で大規模な軍事演習を行った。総統選に向け、武力威嚇やネット上に偽情報を流す世論操作、大陸での台湾の住民や企業への優遇など硬軟両様の戦略を展開しそうだ。中国は民主化された台湾の公正な選挙を妨害してはならない。

 今回の選挙は、台湾で有権者による権力監視が正常に機能していることを国際社会に印象付けた。自由と民主主義の価値を共有する日米欧は、台湾海峡の平和と安定を心から願う台湾住民を支援していきたい。