公正取引委員会=東京・霞が関
公正取引委員会=東京・霞が関

 事業者向け電力販売でカルテルを結んだとして公正取引委員会が独占禁止法違反(不当な取引制限)で、中部電力、中国電力、九州電力の3社側に過去最高となる総額1千億円超の課徴金納付命令を出す処分案と再発防止に向けた排除措置命令を出す方針を通知した。

 事実だとすれば、電力小売りの自由化を骨抜きにする悪質な行為と言わざるを得ない。

 新規事業者にも市場を開放して、各社が経営努力を重ねてサービス内容をライバルと競い合う。その結果、電気料金の低減が進み、どこから電気を買うか顧客側の選択肢も増える。企業が鍛えられ、顧客満足度も向上する。こうした好循環による経済社会の発展こそが自由化の真骨頂だったはずだ。

 電力小売り自由化・電力システム改革は、公正で自由な市場競争を進める仕組みであるとともに成長戦略でもあった。旧来の地域独占では経営に独創性が生まれず、事業の進化や拡大を妨げてきた。一連の改革は、硬直的な経営から脱却する足掛かりとして機能することが期待されたが、それを事業者自身が葬ったのなら、自らの存立基盤を危うくしたと言うしかない。

 電力小売りが全面自由化されたのは2016年。各社は従来の自社エリアを越えて広く営業を展開し、安売り合戦を繰り広げた。だが都市ガス大手など異業種の参入もあり、シェア争いが激化し、体力をすり減らしていった。こうした中で、シェア拡大方針を見直し、採算を重視する方向に転換していったのだろう。

 各社は18年秋ごろからオフィスビルや大規模工場向けの「特別高圧電力」、中小ビルや中規模工場向けの「高圧電力」の販売に関して、互いに他社の区域では営業を控え、顧客獲得を制限していた疑いがあるという。カルテルで料金が不当に高く維持されていたのなら、支配的事業者が結託して市場競争をゆがめ、顧客に不利益をもたらしたと言える。

 課徴金は違反行為によって得られた売上額を対象に最大10%の算定率を乗じて計算する。最高額は中国電の700億円超。カルテルの範囲が広域に及び、対象となる売り上げが他社よりも高く認定されたようだ。次に中部電とグループ会社の275億円、九電は約27億円だった。中国電は23年3月期連結決算見通しを2097億円の赤字に下方修正した。

 燃料価格上昇などで厳しい経営が続く中、課徴金負担がさらに追い打ちになるケースも出てくるだろう。しかし金銭的な損失より、信頼を失ったことの方が深刻だ。中国電は家庭向け規制料金の平均3割超の値上げを申請しているが、審査ではカルテルに対する批判が出るのは必至だろう。

 今回のカルテルは関西電力も関与していたという。むしろ中心的な役割を担ったとみられている。だが独禁法の課徴金減免制度(リーニエンシー)に基づき、調査前の自主的な違反申告が認定され処分を免れたようだ。

 減免制度は隠れた違反をあぶり出す狙いで、その効果はあったのだろうが、「おとがめなし」は国民的な納得を得られるのか。関電はカルテル問題について顧客や国民向けに説明する機会を設けてはどうだろうか。情報公開、透明性の確保の重要性を改めて認識してほしい。