静岡県裾野市の私立保育園で園児に虐待行為を繰り返していた疑いが強まったとして、静岡県警は暴行の疑いで、既に退職した30代の女性保育士3人を逮捕した。受け持っていた1歳児クラスで、園児にカッターナイフを見せて脅したり、足をつかんで宙づりにしたりした疑いが持たれている。3人とも容疑をおおむね認めているという。
園長は虐待を口外しないとの誓約書を全ての保育士に書かせていたとされ、市は犯人隠避の疑いで告発した。しかし、その市も、8月には園の内部事情を知る人物からの情報提供で事態を把握していたのに、11月末に地元紙の報道で問題が発覚するまで保護者や市民に説明していなかった。
富山市の認定こども園でも虐待行為が確認され、富山県警は暴行容疑で保育士2人を書類送検した。仙台市も保育士3人の処分を発表した。自ら抵抗したり、周囲に被害を訴えたりできない園児への虐待が後を絶たない。取り返しのつかない精神的なダメージを与える恐れがあり、どんな理由があったとしても、決して許されないことだ。
保育の現場でよく指摘される慢性的な人手不足によるストレスがあったのかなど、静岡事件の背景を注意深く掘り下げ、併せて行政の対応を検証しなければならない。その上で、虐待が疑われる場合の初期対応や外部チェックを強化するなど対策を尽くす必要がある。
裾野市の私立保育園に対し「不適切な保育が行われている」と内部通報があったのは6~7月ごろ。その後、市にも情報提供があり、事実関係の調査が始まった。9月に保育士3人は懲戒処分を受け、3人とも退職。園が市に提出した調査報告書には、ズボンを無理やり下ろすといった行為も含め16事例にも及ぶ虐待が記載されていた。
市は遅くとも、保育士らが処分された時点で記者会見を開いて問題を明らかにし、その概要や対策などを説明すべきだった。それは園についても言えるが、園長は内部通報には対応せず、口止めの誓約書を集めるなど隠蔽(いんぺい)に動いたとされる。
今回は、幸いにも園児の命に関わるような事態には至らなかったとはいえ、保育園のような施設内で何が起きているか目配りするのは難しい。
厚生労働省は2020年度、暴行や暴言など「不適切な保育」に関する調査を実施。19年度に全国で345件あったことを確認している。対策をまとめた手引では専門機関による調査で「第三者の視点」を入れるよう促しているが、十分には浸透しておらず裾野市の幹部も「手引に基づいた対応はしていなかったと思う」と話している。
逮捕された保育士3人のうち1人は「新型コロナウイルスの影響で業務が増え、突発的にやった」などと供述しているという。捜査を見守りながら、保育士1人に1~2歳児6人という国の配置基準や低い給与を巡る不満など、保育の現場が抱える構造的な問題とも向き合い、対策を講じていく必要があるだろう。
事件をきっかけに厚労省は、全国の保育施設や自治体を対象に、虐待に関する情報への対応状況を調査する考えを明らかにしている。虐待をなくし、幼い子の安全を確保するために何をすべきか。危機感を持って丁寧に調べ、問題を抱える施設に指導や支援が行き渡るよう心がけてほしい。