同性婚を巡る訴訟の判決後、取材に応じる原告の小川葉子さん(右から2人目)ら=11月30日午後、東京地裁前
同性婚を巡る訴訟の判決後、取材に応じる原告の小川葉子さん(右から2人目)ら=11月30日午後、東京地裁前

 一向に動こうとしない国会に対する司法のいら立ちが、感じられる判決だった。同性婚を認めていない民法、戸籍法の規定の違憲性が争われた訴訟で、東京地裁は「違憲状態にある」との判断を示し、国会に法整備を強く促した。

 全国5地裁に起こされた同種訴訟のうち3件目の一審判決だ。昨年3月の札幌地裁は「違憲」、今年6月の大阪地裁は「合憲」と結論は分かれたが、この2判決も立法措置を求めた。ボールはいま国会にあると言える。

 与党は「最高裁など今後の司法判断を見守る」としているが「まだ下級審」と見くびってはならない。一連の司法の指摘を重く受け止め、国会での議論を本格化させる契機とすべきだ。

 東京訴訟は、婚姻届を受理されなかった東京、沖縄などの30~60代の同性カップルら男女8人が国に損害賠償を求めて起こした。

 判決は、憲法24条2項が婚姻、家族などに関する立法に際して「個人の尊厳に立脚する」ことを求めている点を重視。同性カップルが家族になるための法制度がない現状を「人格的生存に対する重大な脅威、障害」と厳しく指摘し「24条2項に違反する状態」とした。

 ただ「そのような法制度は多様なものが想定され、現行制度に含める方法に限られない」とし、現行民法などの規定に含まれていないからといって「同項違反と断ずることはできない」として賠償請求を退けただけだ。限りなく「違憲」判断に近いと言えよう。

 あるべき法制度については「立法府で十分に議論、検討がされるべきであり、立法裁量に委ねられている」と言っており、国会での議論を強く後押しした。

 札幌判決は東京判決とは理論構成を異にし、法の下の平等を保障する憲法14条違反を理由に明確に違憲判断を示した。国の賠償責任は否定したが「同性カップル保護の議論は2015年からで、国会が直ちに立法不作為の違法性を認識するのは困難だった」が理由だ。

 逆に言うと、このまま放置し続けると賠償責任が生じるわけだ。国会に最後通告を突き付けたと言ってもいいだろう。

 「合憲」の大阪判決ですら、同性カップルが異性カップルと同様の法的利益を受ける必要性は認めており、「将来的に違憲となる可能性」に言及している。結論はそれぞれでも、司法の要求は少なくとも国会議論の本格化で一致している。

 国民の意識は大きく変化している。国の助成を受けた全国意識調査では、同性婚に「賛成」「やや賛成」が15年は51%だったのが、19年は64%に増加した。しかし政治の動きは鈍い。

 自民党は16年に性的少数者の権利拡充などを検討する特命委員会を設置し、性的少数者に関する「理解増進法案」を国会に提出しようとしたが、昨年5月に事実上見送られた。背景には保守派の強い反対があった。

 立憲民主党など野党も19年に同性婚実現のための民法改正案を衆院に提出したが、審議されないまま廃案になっている。

 岸田文雄首相は今国会で同性婚について「家族の在り方の根幹に関する問題で、極めて慎重な検討を要する」と従来の政府答弁を踏襲するだけだった。状況は安直な先送りが許されないところに来ている。首相がまず自覚しなければならない。